旅の何が楽しいかと聞かれると、あまりに多くの面があり、一概に答えることが難しいのですが、その中でも僕の心に深く残っているのはチルアウトしているシーンです。
チルアウトとはちょっと前に流行った言い回し(?)なのですが、要は「まったり」とか「のんびり」とかそういったイメージのことです。
せっかちな性格が災いし、どうもまったりのんびりみたいな時間の過ごし方が苦手なのですが、それは「のんびりするぞ!」「まったりするぞ!」と意気込んで時間を過ごそうとするからだと思います。
なので、偶然訪れたそういう瞬間であれば、チルアウトを楽しめることが分かった旅でもありました。
今回は、今でも心にグッと残っているチルアウトな瞬間をご紹介します。
もしかすると、僕のようなせっかちの人に向いた、チルアウトスポットになっているかもしれません。
もくじ
- 【第10位】屋台で麺を食べたとき(中国・昆明)
- 【第9位】ベンチで屋台のサンドイッチを食べたとき(モロッコ・フェス)
- 【第8位】ドナウ川沿い散歩(スロバキア・ブラチスラバ)
- 【第7位】巨大マニ車を回した夜(中国・シャングリラ)
- 【第6位】コーヒーを見つけて飲んだ夜(スロベニア・リュブリャナ)
- 【第5位】宿の中庭でアイスを食べてお茶を飲んだとき(中国・洛陽)
- 【第4位】チャイすすっていた日(ネパール・カトマンズ)
- 【第3位】ヌーディストビーチにて身体の存在を実感したとき(ギリシャ・ガヴドス島)
- 【第2位】Hロさんと話した夜(キルギス・ソンクル湖)
- 【第1位】ゲルでAラさんとタバコ吸いながら話し通した夜(モンゴル・草原)
- チルアウトポイント
【第10位】屋台で麺を食べたとき(中国・昆明)
ネパールから中国へ飛び、あまりの発展具合に驚いた日でもあります。
宿は郊外に建っており、日が暮れてきたので宿に戻っていると、川沿いにひしめく屋台街を見つけました。
夕飯を済ませていなかったので、何かうまそうなものはないかと端から端まで歩いていたのですが、ふと目に留まった一軒のラーメンらしき屋台。
店主と目が合い、そのまま注文することにしました。
言葉は通じませんでしたが、
「そこに座って待っていて」
というように促され、簡易なイスにしている箱に腰かけていると、斜めになっている低いテーブルに、発泡スチロール製の容器に入った、何とも旨そうな野菜たっぷりの熱々ラーメンが運ばれてきました。
一口食べてみると、超美味しいというようなものではありませんでしたが、米で作った麺が入っており、優しい味とたっぷりの野菜にほっとしました。
夢中で食べていると、店主が「どうだ?」というようなことを聞いてきます。
「Good!」と答えると、満足そうに調理に戻っていきました。
店のほとりには小さな川が流れており、夜市の喧噪と混じって川のせせらぎが聞こえて来ていました。
今までの国と違い、僕は中国人と同じジャンルの顔であるため、一切の視線を浴びることもありません。
完全に街に溶け込み、夜闇の中、ボロい屋台から街を眺める。誰かが僕を見る緊張感もなく、僕が誰かを見る。
久しぶりに感じた存在の自由だったかもしれません。
【第9位】ベンチで屋台のサンドイッチを食べたとき(モロッコ・フェス)
ヨーロッパをあらかた周り、訪れたアフリカ最初の国、モロッコ。
ヨーロッパとはかけ離れた騒々しさ。メディナと呼ばれる旧市街は無造作に建ち並んだ建物の隙間を縫うように道があります。
歩いている内にどこにいるのか分からなくなるくらい道は入り組んでいます。
一日中メディナを歩き回り、日が落ちた頃にようやく宿の近くまで戻ってきました。
夕飯を済ませていなかったので、なにか簡単に食べられるものがないかと探していると、一軒のサンドイッチ屋さんの屋台を見つけました。
ひとつください、と声をかけると、まさか自分が外国人から声をかけられると思ってもみなかった、とでもいったような驚いた顔をした店主は、OKと作り始めました。
恐らくこの街をよく訪れる観光客は、このわずか数十円のサンドイッチを食べたりしないのでしょう。
屋台の横にあったベンチに腰掛け、夜空を眺めていると、店主がスープを持ってきてくれました。
数十円のサンドイッチにスープまで付いているなんて思いもよらず驚きましたが、生姜が効いたスープは疲れた身体に優しく沁み渡りました。
程なくしてサンドイッチが運ばれてきました。わざわざお皿に載せて来てくれたのは、彼の心遣いでしょう。
食べてみると大変おいしく、もっと高く売ればいいのにとも思いましたが、この値段はきっとローカル向けであることと、彼の温厚な性格も影響しているのでしょう。
サンドイッチを食べていると、不安そうな顔で店主がこちらを見ています。
心配することがないくらいおいしいサンドイッチです。言葉は通じませんが、おいしいということを僕の表情から察してほっとしたようでした。
モロッコと言う国は「世界三大ウザい国」と呼ばれています。しかし、この国で過ごした時間は、決してウザいの一言では表すことができません。
夜空と対照的に、オレンジに輝き始めた街のコントラストにうっとりし、ゆっくりとサンドイッチを食べたこの時間は今でも心に深く残っています。
【第8位】ドナウ川沿い散歩(スロバキア・ブラチスラバ)
長く曇りの日が続いていたのですが、ブラチスラバに到着した日は素晴らしい晴れの日でした。
せっかくなので散歩しようと歩いていると、ドナウ川に着きました。ドナウ川には大きな橋がかかっており、中間あたりにベンチが設置してあります。
ベンチに座り、日光浴を楽しんだ後は、川沿いを歩いてみることにしました。
河には水鳥がプカプカと浮いています。
そんなとき、一句思いつきました。
「水鳥が 流れていくよ ドナウ川」
自己満足で一杯でした。「松島や ああ松島や 松島や」に並ぶ名作の誕生の瞬間です。
何も深く考える必要はなく、目の前にあることだけを見て自然を感じるだけ。
ただ天気が良く、川べりに伸びる遊歩道を歩くだけで嬉しい気持ちになる。幸せな時間でした。
【第7位】巨大マニ車を回した夜(中国・シャングリラ)
シャングリラはチベット仏教を信仰する地でもあります。僕は街で小さな手持ちのマニ車を買いました。
マニ車というのは、円筒形の筒で、手持ちのものは持ち手がついており、筒の内部にはお経の書かれた紙が入っています。そしてその円筒を回すと、1回転につき1回お経を読み上げたのと同じ功徳が積めるとされているものです。元々は文字が読めない信者が使っていたとされています。
そしてマニ車を持ったまま、街の中央にある寺院に行ってみました。こちらは過去の火災で焼け落ちた後、再建されたもので、真新しいものでした。
境内には60mにもおよぶ巨大なマニ車がありました。夕暮れにさしかかり、オレンジ色の空が反射した黄金のマニ車は3人の男たちによって回されようとしていましたが、3人の力では一向に動く気配がありません。
それを察した周囲の人が集まり、僕も混じって一緒に力いっぱい回しました。
10人以上が集まり、ようやくゆっくりと巨大マニ車は回り始めました。
歓声につつまれるマニ車は嬉しそうに回るのでした。
【第6位】コーヒーを見つけて飲んだ夜(スロベニア・リュブリャナ)
たまたまラーメン屋さんを見つけ、満腹で夜道を歩いていると、コーヒーのようなカップを片手に持って歩いている人とすれ違いました。
コーヒーが非常に飲みたくなり、どこで買えるのかキョロキョロと周囲を見回していると、コンビニのような店から同じカップを持って出てくる人を見つけました。
僕もそこへ入り、「コーヒーください」と頼むとセルフサービスとのことでしたが、親切に注ぎ方を教えてくれました。
挽きたてのコーヒーの香り。久しぶりです。日本ではコンビニでおいしいコーヒーが手軽に買えますが、海外だとそうはいきません。
コーヒーを気軽に飲もうと思っても、結構高くつくのですが、ここでは1ユーロ(当時130円程度)で買うことができました。
雨で濡れて、街の明かりを反射した道が綺麗です。
宿に向かって歩いていると、街角からアコーディオンの音色が聞こえてきました。
宿の前のベンチにそっと腰かけ、コーヒーを飲みながら街のあたたかい雰囲気を楽しみました。
【第5位】宿の中庭でアイスを食べてお茶を飲んだとき(中国・洛陽)
少林寺を訪れた日です。宿がある街に戻ってきた時にはもうバスが終わっており、自転車を借りて宿まで戻りました。
宿の前には小さな商店があり、そこで好きなアイスとライチ茶を買いました。
宿は高層マンションの一室にあり、マンションは電子キーのゲートに守られた敷地の中にあります。
敷地内には整備された緑に包まれた中庭があり、薄暗くライトアップまでされています。
そこのベンチに腰掛け、アイスを食べ、お茶を飲みます。
中国と言えど、夜は少しは気を張るものですが、警備で守られた敷地内ですから、警戒心を解いてゆっくりすることができます。
僕は田舎育ちですから、緑から聞こえてくる虫の音が非常に心地よく、アイスを食べ終わっても、お茶がぬるくなっても、いつまでもベンチに腰かけていました。
【第4位】チャイすすっていた日(ネパール・カトマンズ)
出国のチケットを購入していたので、出国まで本当にやることがありませんでした。
宿で出会ったKスケも同じで、彼はトレッキングを終え、燃え尽きて宿でHUNTER×HUNTERばかり読んでいました。
チャイでも飲みに行こうと二人で宿を出て、いつものチャイ屋で何杯も何杯もチャイを頼みます。
いつ壊れてもおかしくない木のベンチで、尽きることのない話に華を咲かせていました。
振り返ってみても何を話したのか全く覚えていません。覚えているのはチャイを何杯もおかわりしたことだけ。
それだけ落ち着けていたのでしょう。
【第3位】ヌーディストビーチにて身体の存在を実感したとき(ギリシャ・ガヴドス島)
ガヴドス島はヌーディストビーチだらけです。せっかくなので僕もフルチンになって浜辺に横たわっていました。
波の音を聞きながら、海で冷えた身体を温めようと日光浴していたのですが、砂の感触が気持ちよく、手で触っていました。
掴んでみても、サラサラと拳から流れ落ちていきます。決してつかむことのできない砂ですが、身体には乗ります。
流れ落ちる前に身体にかけてみました。身体の表面に砂が当たる感覚があります。
当然僕には身体がありますが、身体がある感覚はありません。
怪我をしたとき、身体がここにあるな、と気づくのですが、あることが分かるだけで、どこにあるのかという事が分かりませんでした。
というか、この時初めて身体がどこにあるのか分かったので、今まで分かっていなかったことに気づきました。
砂が当たり、砂の感覚がある場所に身体の輪郭を感じました。それだけでやたらと落ち着きました。
別に病んでいる訳ではありません。ここに自分の身体があるということが分かると安心するのだと知りました。
この身体が、この穏やかな砂浜にある。それがだけでいいと思えました。
【第2位】Hロさんと話した夜(キルギス・ソンクル湖)
当時僕は旅に悩んでいました。というのも、せっかちな性格ですから、すぐに街を移動したかったのですが、ビザ申請の関係から、発効までの間、街に滞在し続ける必要がありました。
そんな中で、今後のルート決めや、旅のマンネリ化で苦しんでいましたが、当時一緒に旅をしていたHロさんという日本人と話す内に、お互いの旅にかける思い、旅のために犠牲にしたことを思い出しました。
頑張ったからこそある奇跡のような旅する日々、だからこそ大切にしたい日々。体力的にも、社会的にも、これがラストチャンスだと薄々気づいています。
近くではキャンプファイヤーが猛々しく夜空へ向けて燃え上がっています。標高3,000mということもあり、満点の星空が広がっています。
こんなに近くに美しいものがあることに慣れてしまっていました。そして、明日からも美しいものを見て行こうと決心しました。
夜は冷え込みましたが、いつまでも草原で話し込みました。
【第1位】ゲルでAラさんとタバコ吸いながら話し通した夜(モンゴル・草原)
モンゴルを馬で旅していました。旅はいつもAラさんという日本人とガイドのパタさんと一緒で、テント泊かゲル(遊牧民が住む移動式住居)泊だったのですが、その日はガイドのパタさんのゲルに一度戻ってきた日でした。
気が付くと、その日のゲルはAラさんと二人きり。いつもはパタさんも一緒ですが、今夜は自分のゲルで寝るようです。
二人とも喫煙者ということもあり、二人でタバコを吸いながらいつまでもいつまでも話し込んでいました。
6月下旬の草原は夜冷え込むので、ゲルの中では暖炉を焚いていました。薪をくべて火を起こします。火が消えかかれば薪を追加して、息を吹き込みます。
パチパチと木が爆ぜる音と、時折聞こえる羊のメェーメェーという鳴き声以外は邪魔する音はなく、寝落ちしてしまうまでずっと話していました。
トイレ(草原)に行きたくなり、ゲルを出ると、満点の星空が広がっていました。空気があまりに澄んでおり、周囲に明かりもないので、天の川までばっちり見えます。
Aラさんを呼び、一緒に眺めました。Aラさんはカメラマンなので、星の撮り方を教えてもらいました。
その通りに撮ってみると、いままで光の点しか映らなかったカメラに、ばっちりと星が映っています。
喜んだのもつかの間。寒すぎてすぐに暖炉の前に戻りました。
草原の中ではインターネットは繋がりません。スマホを眺める時間もありません。
ただ、今、目の前にあることだけが全てで、空想も妄想も過去も未来もインターネットで繋がる世界もそこにはなく、星空と暖かい暖炉、そしてAラさんだけが現実の存在でした。
そして、それを楽しめるのは世界中で僕だけなのでした。
チルアウトポイント
BEST10をまとめて気が付いたことがあります。
全てに共通する訳ではありませんが、特徴が2つありました。
一つは「夜」。もう一つは「外」です。
僕は夜の外でチルアウトしがちなのだと気が付きました。
思い返してみれば、会社帰りにコンビニの前で缶コーヒーを飲みながら一服するのが一番のチルアウトでした。
一番落ち着く環境なのでしょう。なので、せっかちな自分を落ち着かせるためにも、夜、外で過ごす時間を増やそうと思います。
せんまさお
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