ヌンチャクが欲しい。香港に来たからにはブルースリーのヌンチャクが欲しいのだ。
今のところヌンチャクが売られている店を見ていないので、調べてみるが情報は出てこない。しかし、ヌンチャク道場なるものがあるそうで、電車に乗って行ってみることにした。
怪しげなビルの11階。その一室が道場のようだ。素知らぬ顔でビルに入る。道場の前まで行き、中をそっと覗く。誰もいないようだ。

なんとなく道場ならヌンチャクを売っているかと思い行ってみたが、練習生が使うであろう使い込まれたヌンチャクが壁にかかっているだけで、お土産なんて売っている雰囲気ではなかった。どちらにせよ、人が誰もいないので諦めてビルを出た。
ヌンチャクは一度諦め、九龍城の跡地へ向かった。昨日行ったモンスターマンションでふと思い出したが、九龍城はこの九龍半島にあった。
かつてイギリスが香港を租借していたころ、唯一例外的に九龍城は租借の対象外とされ、中国の飛び地となっていた。その後に、イギリスの圧力で九龍城を管理していた軍などが排除され、租借していないイギリスも、力の及ばなかった中国も、事実上どこの国も管理していない、法の及ばない不管理地帯となった。
その後、日本軍が香港を占領した際に、空港建設のための資材を確保するために城壁の一部を取り壊したことで敷地が広がったこと、また中国情勢の不安などから難民がこの地になだれ込んだことからスラム街として拡大していった。
無計画な増築に増築を重ね、一度入ると出られないとまで言われるほど内部は複雑化していたそうだ。人口密度は畳1畳に3人という異常な高さであったそうな。
麻薬の取引や海賊版の出版物、コピー商品の製造などが公然と行われていたが、香港が中国に返還された後、九龍城は解体へ向かっていった。そして1993年に取り壊しが始まり、今では平和な公園になっているらしい。
駅から少し歩いたが、かつてそんな無法地帯があったように思えない。ブリティッシュスタイルなのか知らないけれどネクタイを締めた小学生たちが優雅に下校している。
公園に着いた。かつて九龍城の外壁があった場所は植木に置き換わっていた。すでに取り壊しから25年も経っているので当たり前だが、根もしっかりと張っている。


公園内にはモニュメントのような幸せの石的なものが点在している。ベンチではお年寄りがおしゃべりしている。これでいいのだが、もうちょい影が感じられる場所を期待していたので拍子抜けした。
公園内に九龍城の博物館があったので入ってみた。校外学習なのか中学生くらいの子どもたちが大騒ぎしている。特に展示物もなく、写真や絵が貼ってあるだけだったが、パンフレットを見てみると、その博物館は九龍城の一部の取り壊していない唯一の建物だったのだ。九龍城の解体後も老人ホームとして使われていたらしい。
その博物館の前には、九龍城のレプリカがあった。アニメの世界のようなグチャグチャした建物。ここに人がぎゅうぎゅうに詰まっていたんだと思うと、なんとなく男心をくすぐられるし、もし自分がここに生まれていたらと想像したら恐ろしくなった。


ヌンチャク探しに戻る。二階建てバスに乗り、九龍半島側のフェリー乗り場までやってきた。今日もスターフェリーで香港島へ渡る。
人気のおみやげ屋さんにならあるだろうと向かったが、シャレオツなおみやげしかなく、ヌンチャクありますかと聞いたら笑われた。
近くに路上マーケットが集まっているところがあるので探してみたが、コスプレ用のプラスチックのヌンチャクを見つけただけだった。
疲れたので昨日食べ逃したエッグタルトを食べに行く。今日はまだまだ焼いているところのようで、買ってみるとまだ熱々。店の前で早速食べると、タルト生地はまだ焼きたてでサクサク。カスタードクリームは昔ながらのプリンのような卵の味がしっかりと感じられる甘さ控えめの素朴な味。

ヌンチャク探しを続行しようとしたところ、雨が降ってきた。結構強いので近くのマックに逃げ込んだ。ソフトツイストを食べていて気づいた。
(ソフトツイストでは雨が止むまで店内で粘ることができない)
早々にソフトツイストを食べてしまったので外に出る。ビショビショでやる気がなくなった。挙げ句の果てに水溜りにはまり靴もビショビショだ。
ヌンチャクに押されて忘れかけていたが、郵便局へ行く必要があった。というのも、ネパールで買ったナイフがいつ中国で没収されるか分からないからだ。僕は暴れたりしないのだが、そんなこと誰も信じてくれないので、郵便で日本に送ろうとしていた。
アーケードに沿って濡れないように移動し、郵便局へ着いた。局員さんは丁寧に教えてくれた。箱を買い、荷物を詰め、発送窓口に持って行った。
局員A「日本に送りたいんだろう?合ってる?」
気さくな局員さんだ。
局員A「日本大好き、隣の彼も日本が好きだよ」
局員B「東京が好き、Tokyo-H○tはもっと好き」
そう、僕は詳しくないので知らないが、アダルトなあれだ。僕は詳しくないので知らないが、中華圏の方々は日本のアダルト事情に日本人以上に詳しい。僕は詳しくないので知らないが、ミートゥーと言ったら二人とも大笑いしていた。
もう帰ろう。スターフェリーに乗って九龍半島へ戻ってきた。それと同時にヌンチャクへの想いを捨てきれずにいた。
(ヌンチャクがどうしても欲しい)
僕は男人街へ向かった。濡れようが関係ない。いつか乾くさ。
男人街は男の好きそうな物が売られているから男人街という。つまりヌンチャクがあるはずだ。途中、コカ・コーラのライターが18香港ドルで売られていたので、気がつけば買っていた。ついでに店員さんにヌンチャクを知らないかと聞いてみた。
「ヌンチャクは香港では違法だから買えないよ」
衝撃的な事実である。ヌンチャクは違法らしい。つまり僕は今日一日中、違法なブツを置いていないか聞いて回っていたのだ。
しかし、コスプレ用のお店でプラスチック製のものなら見たので、恐らくレプリカなら買うことができるんだろう。そして道場もあったくらいなので、ライセンスか何かがあれば日本刀のように買うことができるんだろうが、それはハードルが高そうだ。
もうレプリカでもいい、しかしコスプレ用よりクオリティの高いものはないかと探し続けた。そしてついにコンセプトがよく分からないお店でヌンチャクを見つけた。
ヌンチャクの新しいやつくださいと言うと、店主のおじさんは慌てながら、ちょっと待っててと言って街へ走って消えていった。久々の客で逃したくないんだろう。そして約3分後、ヌンチャクを抱えたおじさんが走って帰ってきた。
僕は黒のヌンチャクを買った。雨は上がっていた。もう夜の9時だ。最後の夜景でも見ようかと思っているとふと思い出した。
ビクトリアピークという山の上にある施設から香港の夜景が一望できるらしい。それは世界三大夜景の一つだそうな。他の二つは知らないが、ビクトリアピークの何がいいって、山の上までトラムで行けるらしい。それは楽しそうなのでまたもや香港島へ移動してトラム乗り場にやってきた。

カップルか家族連れしかいない。そんな中、トラムの先頭の席に座り出発を待つ。登り始めからジェットコースター並みの角度で進んでいく。腹筋がないときつい。登るにつれ、香港の夜景が見えてきた。トラムがものすごい急角度で登るもんだから夜景も斜めに見える。
頂上に着いた。どうやらビルの屋上に登ると夜景が見えるようだが、入場料が高い。どっか見えないもんかと歩いていると、なんだあるじゃないか。

それはそれは100万ドルじゃとても売ってくれないような美しい夜景が広がっていた。香港最後の夜にふさわしい。そう、明日はマカオへ移動する。今度はカジノだけが目的ではなく、少し観光してみようと思う。つまりカジノへ行かないとは言っていない。
帰り道にご飯を食べていると、隣のテーブルに高校生くらいの子のグループがいた。英語でペチャクチャしゃべっている。どうやら香港人でちゃんとした教育を受けている人は英語を話せるようだ。
顔は日本人と同じなのに言葉から仕草から欧米ノリである。香港は難題を抱えている。香港はイギリスから中国への返還から50年間は資本主義体制を保障されている。つまり中国であって中国とは異なる仕組みで動いている。そして50年目に当たる2048年に完全に中国の一部になる予定だ。
しかし香港人がそれを受け入れるとも、受け入れられるとも思えない。香港人は香港人であることに誇りを持っている。僕にも香港人の友達がいるが、みな中国人ではなく香港人だと言う。横浜とか神戸とか名古屋の人と似ている。香港人は広東語も話せるが、特にエリート層がそうなんだろうが、英語で話し、広東語を話したがらないそうだ。(これはインドでもそうだった。)
それはさておき、香港の寛容な制度を元とする自由な雰囲気、またイギリス支配の名残からくる欧米ノリ(フィリピンにアメリカのノリがあるように)。それが今の管理バリバリの中国と仲良くするのは、どう考えても難しいだろう。囲碁研究会とテニサーが合併するくらい難しいだろう。
エリート層は国外脱出、もしくは香港を更に強くするために教育に力をかける必要がある。するとますます貧富の差が広がる。香港がこのまま運命を受け入れるのか、はたまた2014年の雨傘革命のように反政府運動を再び起こすのか、ただの旅行者の僕は見守るしかない。
ただ無責任なことを言えば、この自由で平和で豊かな香港を無理に変える必要なんてないんじゃないかなと思う。そう思っているだけ。
思い描いていた、暑苦しくて混沌とした香港はもうほとんどなかったけど、それでも、いやそのおかげで「ここは住めるな」と思える国に名を連ねました。良い国だね、香港。香る港、いいじゃないの。
I really wanted to buy Nunchak that is one of weapon in Hong Kong. I walked for long time to look for it but I couldn’t find it. It was rainy all of sudden. I gave up to buy it. When I went back to my hotel. I couldn’t give up to buy it so I visited a street that is famous for any products for man such as robot, watch and so on. Finally, I found Nunchak! I was so happy to buy it. After that, I visited to a top of the mountain by a tram. I saw so so so beautiful night view on the top of the mountain. This is my last day in Hong Kong. I’m so happy.

せんまさお

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