僕は旅を「厄介な趣味」だと考えています。
理由は二つあります。
まず一つ目は、旅は危険な行為ですから、犯罪に巻き込まれるリスクが高いからです。
二つ目は、短期間ならまだマシなのですが、長期の旅ともなると、勤め先を辞める必要があることがほとんどだからです。
「やりたいことをやる」ということを、世間では「よいこと」「かっこいいこと」のように表すことが最近では増えてきたように思います。
しかし実際には、「やりたいことをやる」ことが良いのではなく、「やりたいことをやって、生きていく(=お金を稼ぐ)」ことを良いとしているのが現実だと思います。
「やりたいことをやる」というのはつまり、「本能の赴くままに行動する」ということです。
この特徴は、長期の旅をしている人の殆どに当てはまると思います。
目的は存在せず、深く考える事もせず、そのときの好奇心に任せてその日を生きています。
そのような人を一歩引いて見てみると、その人は単なる「無職」です。社会的な信用は皆無であり、社会に価値を生み出していません。
「やりたいことをやる」という観点では満点だと思います。しかしそれでは社会からは認められないのです。
そして一つだけあることを加えると、とても人間的にすばらしく、魅力あふれる人に早代わりします。
それが「お金」です。もしその旅人が、旅をすることで生活するお金を稼いでいたり、ノマドワーカーのように旅先で仕事をしてお金を稼げているのであれば、皆が憧れる「かっこいい人」になるのです。
つまり、人間らしく生きる(やりたいことをやる)だけでは不十分で、生活すること(お金を稼ぐこと)ができて初めて社会から認められるのです。
そう考えたのは、ギリシャのガヴドス島の砂浜でゴロゴロしていたときです。
気分も天気もとても良い日でした。最高に贅沢な時間を過ごしていたのですが、ふと頭をよぎった言葉がありました。
「人間失格」です。
そして、僕のKindleの中に、太宰治の「人間失格」を入れていたことを思いだし、早速読んでみることにしました。
人間失格の簡単なあらすじ
主人公は人間の営みというものが理解できず、生活の中で人と関わることが恐怖でしかありませんでした。
そこで、そのような自分の気持ちを押し殺して「道化」として生きることにしました。
道化を演じていると、人と関わる際の恐怖心もなくなり、周囲からも受け入れられました。
しかし、自分が道化を演じていることが周囲からバレているのではないかという新たな恐怖に苛まれ、その恐怖から抜け出すために、酒と女とタバコに溺れはじめたのです。
借金をし、自分の女の物ですら質屋に入れて遊び狂いました。
そして、乱れた生活に精神は錯乱し、自殺未遂を何度も図ります。
なんとか幸せな結婚をしましたが、妻に浮気され、再び精神は不安定になり、最終的には精神病院に入れられました。
そこで主人公は「人間失格だ」と感じるのでした。
人間失格の解釈
あとがきでは、主人公を良く知るスタンドバーのマダムが主人公についてこう語っています。
「神様のようによくできた人間だった」
主人公は自分自身のことを「人間失格」だと考えていましたが、このマダムに言わせれば「神様のよう」な人間だったのです。
主人公からすれば理解しがたい社会の中で、必死に人間らしく生きようとした結果、破滅してしまいました。
しかし、よく考えてみれば、人間らしく生きようとした主人公をこのようにしたのは社会の方ではないかと思えてきます。
「人はこうでなければならない」という抑圧が主人公を苦しめたのですから。
人間らしさと人間
人間失格を読み終えた僕は、考えました。
「人間らしさ」が言う人間と、「人間失格」が言う「人間」は異なるのではないか。
「人間らしさ」が言うところの「人間」というのは、人間本来が持つ自由で豊かな発想と行動であると思います。
一方で「人間失格」が言うところの「人間」というのは、社会における「こうあるべき」とされる「人間」の発想と行動です。
つまり、主人公は「人間らしく」しようとした結果、「人間失格」になってしまったのです。
今の社会における人間
これは小説だけの話ではなく、現実の社会でも起きていることだと思います。
「やりたいことをやる」という「人間らしさ」を追い求めると、「人間失格」になってしまいます。
「他人の言う事なんて気にしないぜ」という考えの人を批判するつもりはありませんが、お金を稼げていないのなら、少なくとも社会からは認められません。
結局のところ、人間合格の最低レベルは「生きること(=お金を稼ぐこと)」であり、「やりたいことをやる」というポイントには重点が置かれていないのです。
ならいっそう、「人間らしい」だなんて言わない方が勘違いもしないのですが、「キラキラしたカッコイイ表現」にトキメクのが人間合格の基準なのですから、しょうがないのかもしれません。
僕の目標
僕は今までやりたいことをやってきましたが、たまたまお金がついてきたので、社会からも認められてきたと思っています。
しかし、今回、世界一周の旅に出て、「人間失格」になったと感じています。
この旅を続けている間は、まだ誤魔化しが効いていたかもしれません。少なくとも自分が稼いで作った貯金で旅している訳ですから、批判なんてされる義理もないのですが。
しかし、旅から戻ると一気に人間失格感が浮き彫りになります。
僕はこれからもやりたいことをやりたいし、人間合格でもありたいと思っています。
社会から認められないことに目を背け、「僕は僕の考えがあるからいいんだ」と生きていく事は辛いと感じます。
なので、僕はやりたいことをやって、お金を稼いで生きていく道を選びたいと思います。
つまり、「人間らしく生きて人間合格を目指そう」という計画です。
旅は一旦やめて、合格ラインに達してから、合格ラインを維持しつつの旅をスタートさせることを目指します。結局のところ、旅することをやめられません。やっぱり厄介な趣味です。
せんまさお
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