バクーに戻る。例のウズベキスタンで買ったお土産のお皿に芸術的・歴史的な価値がないという証明の書類を受け取るためだ。
朝飯のために紅茶を淹れる。先日買ったチュロスを食べようと冷蔵庫を開けるが見当たらない。また誰かに食べられてしまった。悔しい!食べ物の恨みは怖いと言うが、確かに今、心の底からチュロス泥棒が恨めしい。
恨みに満ちた心で紅茶を飲む。ここにチュロスがあれば最高の朝だったのに。悔しい!
バスターミナルへ向かう前にパンを買った。キャラメルが入ったクロワッサン。
バスターミナルでチケットを買おうとすると、今日はバスはないと言う。唖然としていると、ミニバスならあるとのこと。ビックリさせないでよ。
おじさんに誘導されて、ここでミニバスを待っておいてと言われる。クロワッサンを食べ終えると、近くでタバコを吸っている人がいたので一緒に吸う。ビール飲むか、と聞くので、飲まないと応える。何を飲むんだと聞くので、コーラを飲むと応える。
人が集まってくる。日本語は難しいと聞いたが本当か、と聞かれる。そんなことは分からない。僕からしたらアゼルバイジャン語の方が難しい。
俺を日本に連れて行ってくれ、と言われる。トランクケースに詰めていいのならいいよと応える。ややウケたが拒否される。
そうこうする間にミニバスがやってきた。チケット売り場のおじさんに誘導され、優先的に一人用のシートに座らせてもらった。よそ者扱いもたまには良い。

前のシートの子供がジロジロ見てくる。笑いかけると笑い返してくれた。子供がお母さんに何か聞き、振り返って僕に聞いてきた。
「どこからきたの?」
日本だよ、と答える。初の日本人との遭遇なんだろう。彼の中で日本の第一印象を決めるのは僕だ。
「日本はナイス?それともバッド?」
日本人的には謙虚に「そんな良くもないですよー」、が模範解答だが、子供は素直なので、そんなに良くないんだ、と思われてしまうリスクがある。
正直な話、日本はナイス、いやベリーナイスだ。僕は日本が大好きだ。そりゃいろいろ問題はあるが、大多数の他の国よりゃ僕にとってはマシだと思う。
僕はナイスだと思うよ、と答えた。
「アゼルバイジャンはナイス?それともバッド?」
ナイスと応えるのがナイスなチョイスだが、正直な話、ナイスとは思っていない。
しかし僕は大人なのでナイスだと応えた。
「ユー、ナイスマン」
ありがとう。君のおかげでアゼルバイジャンのことが少し好きになったよ。
少年がパンをくれた。少年と少年のお母さんにお礼を言う。朝飯を盗まれたが、パンを貰ったのでアゼルバイジャントータルで考えるとコーラ1.5Lマイナスまで持ち直した。

しばらく寝ていると、肩を叩かれた。後ろの席のおじさんがパンをくれた。それがめちゃくちゃに美味しい。焼きたてのようで、外カリカリ中モチモチの極みで、少しトウモロコシの香りがする。ハイスという名前らしい。

これでコーラ1.5Lマイナスのパン1プラスになった。僕の考え方は腐っているなと思った。
5時間半ほどでバクーに到着。元の宿に戻る。スタッフと久しぶりの再会。宿の値段は1マナト(68円程度)上がっていたがまあいい。
荷物を置いていると、目の前に見たことある顔が現れた。カザフスタンのアクタウで出会ったIクさんだった。
カスピ海を船で渡ってようやく到着したらしい。すでにベロベロに酔っ払っている。再会って結構あるから不思議だ。
少し休憩して一緒に夕飯を食べに行った。やはりバクーの飯はうまい。

宿でシャワーを浴びてから出てくると、スタッフが困り果てていた。
「助けてくれ、中国人が何言ってるのか分からないんだ」
そこには3人の中国人の姿が。恐らく夫婦とその娘に見える。英語が全く分からないようで意思疎通ができていない。中国語の通訳をしてくれと言うが、僕だって分からない。
幸いにも予約確認書を持っていたので、読ませてもらうと、ドミトリーを予約していたようだが、どうやらドミトリーに男性がいるのが気にくわないらしい。
それならと個室をスタッフが案内するが値段が高すぎるらしい。文句があるなら他の宿に行けばいいのに。
スタッフも同じ考えのようで、わざわざ他の宿に問い合わせてあげて、値段を伝えるが、もう疲れたから寝たいらしい。
気持ち半個室のように区切られたドミトリースペースがあるが、そこはすでに他の客が使っているので、スタッフは妥協案で「悪いけどベッドを移動してもらえるかな」と僕たちに言う。
スタッフがかわいそうなので僕たちは別のベッドへ移動するが、当の彼らは全く状況が分かっていないようで、僕らを一瞥もすることなく例のごとく大騒ぎしている。
「ハウマッチ?」
それだけは知っているようだ。そしてそれは予約確認書に書いてあるので、これだと僕が見せた。
既に午前1時前。寝ていた他の客も起きてしまった。ようやく彼らも納得したようで、ベッドへ向かうが、大きなため息をついている。移動した僕らは顔を見合わせ、この感情をどこへぶつければいいのか困っていた。
スタッフが電気を消すと、彼らは電気を消すなと言う。もうみんな寝てるから、と諭すが、彼らは荷物が見えないと譲らない。
スタッフが静かにしてくれと何度も頼むが、大声で話し続け、声を潜めることをしない。
その内、キレたスリランカ人が大音量でゲームを始めた。スタッフが注意すると、
「他に誰が寝てるって言うんだ。こんなにうるさかったら寝られないから一緒だ。」
と言う。世界から戦争がなくならない理由が少しだけ分かった気がする。
彼らに場所を譲ったアラブ人らしき恰幅の良い男がその光景を眺めながら呆れたように言う。
「僕は日本人が好きだよ」
ようやく落ち着いた頃、スタッフがタバコを吸おうとベランダに誘ってくる。
「日本と中国は全然違うんだね」
顔は一緒だけどね。と冗談を言うと、彼は疲れ切った顔で遠くを見つめ、無言で僕があげたタバコを吹かせた。いいかげん自分で買いなよ。
マナー云々かんぬんは色んな考え方があるけど、海外へ行く際は、お邪魔するという気持ちを持って分かる限り最低限は現地のルールに合わせるべきだ。
自国内で自由にする分には知ったこっちゃないが、せめて外国では基本的には謙虚であって欲しい。言葉が分からないなら翻訳アプリぐらい用意して来るべきだ。
それすらできないのなら、高い宿に泊まればいい。きっと通訳サービスくらいあるはずだ。安宿のドミトリーに追加で注文をつけるのはナンセンスだ。一泊400円以下だぞ。
なぜかこれを書いている今も、その中国人の娘が僕を指差して「ジャパニーズ、ジャパニーズ」と笑っている。娘と言っても恐らく30代だろう。理解不能だ。まず場所を譲ってもらったことの礼くらい言うべきじゃないか?シェイシェイくらいなら僕も分かるが、一切そんなことは言われなかった。
それでも、当たり前だが決して全ての中国人がこうではないと勘違いしないで欲しい。
とにかく、明日はお皿の証明書の受け取りだ。無事に明日中にお皿を日本へ郵送できれば、できる限り早く次の国へ向かいたい。アゼルバイジャンがもっと嫌になる前に。
でも、やっぱおもしろいね、旅。

せんまさお

最新記事 by せんまさお (全て見る)
- 【世界一周#413】陽気な国だ - 2024年9月24日
- 【世界一周#412】逆走ハイウェイ - 2024年9月23日
- 【世界一周#411】アレナメヒコ - 2024年9月22日
コメントを残す