朝食のパンにカビが生えている。無理もない、雨ばっかり降っているのだから。ガイドのパタさんに「カビ生えてます」と伝えると、別のパンを渡された。裏返してみるとカビが生えていた。
しょうがないのでカビを取り除いて食べる。昨日、10時に出発すると言われていたが、今日も天気が怪しいので7時半に起こされた。
昨晩寝られなかったこともあり、少し寝不足ぎみで食欲がわかない。僕はカビパン2枚でフィニッシュして丼のような器で2杯の紅茶を飲んだ。
8時半には出発。旧首都のカラコルムまではあと2時間程度らしい。
大ちゃん(馬)の後頭部を眺めながら少しセンチメンタルな気持ち。今日もピョコピョコと動く耳が愛おしい。
頭から背中まで続くたてがみは硬く、撫でてもすぐに元の形に戻る。背中をさすれば手が泥だらけになる。たまに寝っ転がって背中でゴロンゴロンしているからだろう。痒いのかな?
大きな川を渡り進むと、遠くの山の頂上に大きな看板が見えてきた。その山を越えるとカラコルムがあるらしい。
馬はすごい。どんな坂道だろうと、人を乗せたままエッサホイサと登っていく。もう山頂だ。
山の向こうには、色とりどりの屋根をした家が沢山建っていた。大ちゃん(馬)の一歩一歩を感じながら山を下る。
また橋に差し掛かった。今度はどの馬もビビって渡れない。そこに地元の人が馬に乗ってやってきた。その馬は何のことなく橋を渡る。
僕たちが渡れないことに気づいたのか、その地元の人は馬に乗ったまま僕たちの馬を引っ張ってくれた。
後ろでパタさんが馬のお尻を叩いたり蹴ったりしながらなんとか全頭渡れた。もちろん大ちゃん(馬)は最後。
そのまま今夜のゲルに行ってパタさん達とお別れかと思っていたが、どうやら寺院に連れて行ってくれるらしい。
エルデネ・ゾー寺院はモンゴル最古の寺院。大量のチベット仏教式の仏舎利塔に囲まれた敷地内にある。
パタさんは馬を繋ぐとどこかへ行ってしまった。僕たちは少年の先導で敷地内を見て回る。
いつも空気を読まない少年が、この時ばかりは真剣な眼差しで仏像を拝んでいる。
また雨が降ってきた。敷地内にある展示スペースを見ながら雨が止むのを待ち、馬のところに戻った。
パタさんと合流し、再び大ちゃん(馬)に乗った。とうとうゲルに向かうらしい。
街の外れまで移動し、ゲルのゲストハウスに到着。食堂でみんなで昼食を食べる。
メニュー自体はいつもと変わらない羊肉のマカロニ炒めだが、少し都会の味がする気がする。コーヒーも川や湖以外の水で飲むのは久しぶりだ。
ゲルに戻るとパタさんは寝てしまった。少年は久し振りにオンラインになったAラさんのスマホでYouTubeを見たり、僕のスマホに入っているゲームで遊んでいる。
1時間もせずにパタさんはムクッと起き上がると、じっとこちらを見ている。
「バイラッラー(ありがとう)」
そう言うと、握手とハグをしてきた。お別れの時だ。
馬に荷物を積む。大ちゃん(馬)ともお別れだ。大ちゃん(馬)もお疲れ様なんだろう。立ったまま寝ている。
よく15日間も重い僕を運んでくれたもんだ。よく躓くし、歩くの遅いしビビりだけど、ありがとう。助かったよ。
そっと横腹に手を添えると大ちゃん(馬)は目を覚ました。帰り道は軽いから少しは楽だね。草いっぱい食べて元気でな。
最後に一緒に写真でも撮りましょう。そう伝え、横一列に並ぶ。雨が降ってきた。セルフタイマーのシャッターが切られると同時にみんなで急いでゲルに帰った。タイミングが悪い。
またみんなでゴロゴロしていると雨が止んだ。よし行こうとゲルを出て荷物を積み直しているとまた雨が降ってきた。例のごとくゲルに戻る。僕は余っていたスニッカーズを少年にあげた。少年は一口かじると驚いた顔をしていた。激ウマなんだろう。僕もそう思う。
パタさんにはとっておきのパイン飴をあげた。日本の味が恋しくなった時用に持ってきていたが、荷物にもならないだろうし、残りを全部あげた。
三度の正直。パタさん、大ちゃん(馬)、その他の馬達、そして少年は草原へ帰って行った。いつまでも振り返って手を振るパタさん。僕たちはみんなが見えなくなるまで手を振っていた。
雨上がりで肌寒い。ゲルに戻り、久しぶりのシャワーを浴びる。シャワーヘッドからは一筋の湯しか出ないが、それでも大丈夫。
4回目のシャンプーでようやく普段通りの泡が立つようになった。ボディーソープも4回目でようやく満足がいく泡に。
汚い話だが、数日前にふと肌をこすると垢がボロボロと出てきた。
「力太郎」という童話があるが、長い間風呂に入っていなかった老夫婦が垢で人形を作ると命が芽生えたとかいう狂気じみた話で、そんなん無理でしょと思っていたが、今ならAラさんと協力すればキン消しくらいの垢太郎を作ることくらいできそうだ。
ともかく、ウランバートルの宿にゴシゴシタオルを置いているので、戻ったらもう一度入念にゴシゴシしたい。
外は雨が降ったり止んだりを繰り返している。パタさんたちが安全に戻れることを祈る。
夕飯の時間になり、ゲルから出る。遠く地平線の先には雨雲があり、その下には虹がかかっていた。
「今日も雨だよ」とボヤいていたとき、ある人から「虹が見れるかもね」と言われたことを思い出した。
つまりはそういうことなんだろう。
夕飯はミートボールと野菜の煮物、キャベツのサラダとご飯。普段ならミートボールに喜ぶところだが、ブロッコリーの甘みに笑みが収まらない。
キャベツのシャキシャキとした食感を噛みしめるたびに感じ、喜びが湧き上がってくる。
パタさんの料理も美味しかったが、久しぶりに違うご飯を食べると嬉しいもんだ。
夕飯後には、食堂で一人5,000トゥグルグ(200円程度)でトラディショナルなコンサートが開かれるということで、疲れていて気乗りしなかったが参加することに。
すると演奏者が持ってきたのは馬頭琴。あの小学2年生から聴いてみたいなと思っていた馬頭琴。念ずればホンマに割と通ず。
二本しかない弦から出ているとは思えない変化に富んだ演奏に加えてホーミー出ました。
いつだったか忘れたけど学校の音楽の時間にビデオで見たホーミーです。出会った何人かのモンゴル人にホーミーできますかと聞いていたが、誰もできず諦めていたホーミー出ました。
ホーミーとは喉声といわれる歌唱法で、超低音と超高音の二つの音を同時に出す意味が分からない歌声なのだ。
食堂に響き渡る馬頭琴とホーミー。曲のテーマを英語がわかるモンゴル人が通訳してくれる。
「これは速い馬の曲です」
なるほど、速い馬の曲な気がしてきた。
40分ほどで演奏会は終わり。コーヒーを飲みながら食堂でまったりしていると、先ほどの英語がわかるモンゴル人がやってきた。
どうやらバイトでガイドをしているらしく、ツアー客がもう寝たから暇だし話そうとのこと。
「明日はラクダに乗るツアーだよ、僕も乗ったことないのに、明日は分かったような顔で乗り方を教えなきゃ」
ガイドの裏事情である。
彼は日本語も少し話せる。アニメで覚えたらしい。たまに聞くけどどんだけ観たら覚えられるのよ。
僕たちのゲルに移動。ストーブの中には乾燥したヤクの糞が入っている。糞に着火。一晩もつらしい。暖かい部屋で3時くらいまで話し込み、いつの間にかみんな寝てしまっていた。
せんまさお
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