とにかく雨が心配だ。確かにモンゴルの観光シーズンは7月からと聞いてはいたが、もう6月末なのに毎日のように雨が降る。
レインウェアを無くしたので、雨は必要以上に恐ろしい存在になっていた。
今日もひたすら草原を走る。もう見慣れてしまったが、冷静に考えると貴重な景色の中にいることに気づく。
山は穏やかに隆起し、木々はまばらに生えているだけ。草原はどこまでも広がり、少し不安にさえなる。
ネパールは山を見るところだと出会った方が言っていたが、どうやらモンゴルは地平線を見るところらしい。
視界を遮るものはなく、遠くの方で雲が作る影一つ一つの動きまで見える。雲が雨を降らせている場所も、またそれが段々と近づいて来ているのも見える。
雨雲から逃げるように先を急ぐ。努力叶わず、あっという間に雨雲に追いつかれた。手頃な木陰を見つけたので、ここで昼食をとる。
今日はキムチラーメン。ガイドのパタさんが歯で袋を食い破る。手で開ければいいのに今日も豪快だ。
おおっ、と反応すると、こちらに目線を向けたまま二袋目を食い破る。お調子者だ。
ちょうど食べ終わった頃に雨雲は去り、今のうちにとどんどん進む。
いくつ山を越えただろうか。ヘトヘトになった頃に大きな川へ着いた。数日前から謎の頭痛があり、揺れるとひどく痛むのでテントを張ると横になった。
動かなければ頭痛もないが、少年が空気を読まずにテントに遊びに来る。毎日揺れ続けたからだろうか、それとも天気が悪いからだろうか。少なくとも風邪ではない。
僕は少年を無視して寝ていたが、少年は空気を読まずに僕のカメラで僕の寝顔を撮ってくる。僕は彼を蹴飛ばしたが、少年は隣で寝始めてしまった。
寝ている間な雨が降ったらしい。テントを開けて外に出ると、弾ききれていない雨粒が頭に降ってきた。
夕飯はヤクの缶詰とトマトソースのマカロニ炒め。馬旅が明日で終わることを暗示するかのような贅沢な飯だ。
パタさんのテントの中で食べるが、隙間風が冷たい。昔、欧米人からもらったらしいテントは入り口のチャックが片方壊れていて完全には閉まらない。
時折、パタさんは今後テントを使うのか聞いてきていた。でもあげない。
食べ終わると運動も兼ねて近くの岩山へ登ることにした。先客でヤギが大量に登っている。
山に近づくにつれ、森が動くかのように、黒いヤギの群れがゆっくりと移動し始めた。僕は逃げ遅れたヤギを逃すまいと岩肌に追い詰めながら登ったが、逃げ遅れて立ちすくんでウメーウメー鳴いているヤギを見ているとなんだか可哀想になって逃がしてやった。
Aラさんと少年も一緒に登る。僕が写真を撮っていると少年は空気を読まずに映りたがってくる。こいつ懐いてやがる。
岩山からはあたりが一望できるが、一望したところで何もない。僕らが張ったテントがポツリポツリと草原から生えているだけだ。
なんてところに来てしまったんだろう。モンゴルに来たその日までこんなことをするつもりはなかった。ましてや落馬する日が人生で訪れるなんて思いもしなかった。本当に日々何が起こるか分からないから旅はおもしろい。
明日が最後かと思うと少し寂しい気持ちになってきた。パタさん、そして大ちゃん(馬)の顔が空に浮かんでくる。あと人が黄昏ているのにさっきから煩い少年。
Aラさんだって、モンゴルを出たらお別れだ。なんやかんやもう17日間も一緒にいる。いつもオナラこいてばっかりで臭いけど、人を惹きつける心優しい人なんや。
山を降りていると膝と頭が痛む。休んで治るのならいいが、膝は昔痛めていただけに少し怖い。
また雨が降ってきたのでテントに籠る。本を読んでいたら午前2時。寝たくてもなんだか寝付けなかった。
せんまさお
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