全員9時過ぎまで爆睡していた。外で一服していると、ガイドのパタさんがどこから借りてきたのかバイクに跨っている。
「馬が一頭おらん」
一大事だ。馬は夜の間は2頭だけ杭に繋いでおくが、他の馬はほったらかしておく。繋いでおく馬はランダムな気がするが、恐らくパタさんが様子を見て決めているんだろう。
荷物をまとめているとパタさんが帰ってきた。消えた馬はどうやら近くの川で水を飲んでいただけらしい。
この場所にもショップがあったのでコーラを買う。
「ファンタがいい」
そうパタさんが言った。いや飲むんかいと思いながらもファンタとコーラを購入。
昼前に出発し、今日は寺院に寄ることに。数日前からパタさんが手を合わせるジェスチャーで教えてくれていた一押しスポット。
山の上に寺院があるようで、石段を登っていく。Tuvkhun Monasteryというらしい。トッフンみたいな発音。
入場料3,500トゥグルグ(140円程度)を払う。なぜ一括で払った代金に含まれていないのか疑問。
モンゴルにはシャーマニズム的な土着の宗教やイスラム教もあるが、チベット仏教が広く信仰されている。
この寺院もチベット仏教のもののようで、カラフルに彩られている。何より、山間に突然現れる寺院が生む違和感がその存在を引き立てている。丁寧に補修されている訳ではないが、大切に守られていることが分かる。
更に崖のような道を進む。場所によっては足の横幅くらいしかない道を歩く。踏み外せば数m落下するので死にそうだ。崖にへばりついてゆっくり進む。
進んだ先には洞窟があった。大きくはない洞窟だが、匍匐前進でなんとか進めそうだ。
パタさんによると、この洞窟は母体の胎内だということらしい。輪廻転生の考えから、人は死ぬと胎内に戻り、再び生まれ変わるということを繰り返すのだが、それをこの洞窟で再現しているのだ。つまり洞窟内で祈り出てくることで清められるというイメージだ。
靴と靴下を脱ぎ、匍匐前進で洞窟に入る。少し下に向かって洞窟が伸びているので、頭に血がのぼる。
そこまで深くはなく、5mほど進むと奥はなんとか向きを変えられるほどに広がっていた。ちなみに最深部には直径30~40cmほどの穴が空いており、覗くと結構な崖の真上に繋がっているようだ。つまり小さい人は穴から落ちて死ぬ。
頭の向きを洞窟の入り口に変える。179cm(本当は178.9cm)の僕がギリギリ方向を変えられる広さ。洞窟の内壁にゴリゴリと身体を擦りながら動くもんだからあっちこっちが痛い。せめて長袖を着ておけばよかった。
再び匍匐前進で洞窟から出てきた。僕は生まれ変わったのだ。やっほー!
ちなみに生まれ変わりの話だが、宗教的な話は置いておいて、日常でいうレベルの生まれ変わりは性格とか得手不得手とかの話がほとんどだと思っていて、それはわざわざ生まれ変わらなくても意識の変化やトレーニングでたった今からなんとでも変われることが殆どだと思うので洞窟じゃなくてカフェ(ベローチェが好き)とかで十分だと思う。
生まれ変わりだなんて大げさだなぁとか思いながら再び崖を進んでいた。最後の一歩。できる限りこの足の横幅しかない道は踏みしめたくないので、ジャンプして少し広くなった道に着地した。
それと同時に着地点の岩が崩れた。
「ウォン」
僕は声を上げ崖にへばりついた。なんとかまだ生まれ変わらずに済んだが、Aラさんは岩が崩れる音と僕の声に驚き、僕が落ちたと思ったらしい。
先ほどすれ違った韓国人マダムのためにも足場を直しておく。すれ違いざまの「アニョハセヨ」。僕はよく韓国人と間違えられる。
その後、山を3つも越えているとふと気付いた。鞍に結んでおいたレインウェア(上下総額1万8千円程度)がない。やってしまった、どこかに落とした。引き返そうにも進んできた道すら草原なんだから分からない。
存在を確認した最後の記憶は3時間前の昼食時。今更3時間戻ったところで広大な大地から見つけられる自信はない。
誰かが見つけて使ってくれることを願って諦めた。なによりゴミになって環境を汚染してしまうのは心苦しい。
その後1時間ほど走り、小川沿いにテントを張った。今後、乗馬中に雨が降ると困る。濡れるだけでなく、雨は基本的にめちゃくちゃ冷たいので危ない。濡れたまま夜を迎えると寒さに耐えられず、テントに泊まることは実質的に難しい。
夕飯を食べ終わった頃には日が暮れかけていた。馬を杭に繋ぎ、少年は寝た。
僕とAラさんは例のごとく話し込んでいたが、焚き火もないので今夜は僕たちも早く寝ることにした。
せんまさお
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