まだ日も出ていない。そりゃそうか、日の出を見に行くんだった。
けたたましく鳴る目覚ましを何度も止め、ようやく起き上がった。
部屋の前のベンチでタバコを吸う。部屋を一歩出ると寒さに震える。
歯を磨き、カメラをナナメにかけて宿を出た。街灯があるから道はよく見える。さすが観光地。野犬もいない。猫はいる。
昨日夕飯を食べたレストランの前でTミサワさんと待ち合わせ、丘に登る。
昼間は無料の丘も、日の出を見たい人たちからは一人3リラ(57円程度)を徴収している。抜かりがない。
丘に登ると、昨日の昼間に出会ったYシキさんがいた。声をかけて3人で日の出を待つ。
一人200ユーロ(24,200円程度)を払えば気球に乗って日の出を見られる。丘の下、いや、山の向こうにまで、いやいや、後ろの丘の上にまで気球が待機しているのが見える。
これは100個どころの数じゃないぞ。仮に100個だとしても、1つに5人乗るとして、
100個×5人×200ユーロ=100,000ユーロ
一日で合計12,100,000円程度のお金が動いていることになる。しかも籠が大きな気球もある。下手すればこの倍の額動いていてもおかしくない。とんでもない規模だよこれは。
静まった夜明けの街に、気球のガスを燃焼させるゴォーという低い音が何重にも響き渡る。それと同時に炎に照らされた気球がピカピカと光っている。
日の出時間に間に合わせるように、フワフワと気球が浮き始めた。ものすごい数だ。もはや日の出よりも気球の方に目がいく。
みんな日の出前から気球をバックに写真を撮っている。分かる、その気持ち分かる。スケールが大きすぎる。
その内、日が出た。思わず、お、と間抜けな声が漏れた。
おはようございます。
大量の気球の下、丘を下る。朝飯にパンを二つ買い、宿に戻る。
食べ終わると眠たすぎたので二度寝開始。想定通り。
2時間後に起き、昼前にTミサワさんと再び合流してバイクをレンタル。
街から30kmほど離れた地下都市の遺跡へ向かう。
Tミサワさんを後ろに乗せて走る。メーターが壊れているので何キロ出ているのか分からない。ヘルメットはおもちゃみたいなペラッペラのものだし、道は荒い舗装なのであんまり飛ばしたくない。
1時間ほどかけて地下都市へ到着。久しぶりの運転かつ二人乗りで緊張したのでひとまずティータイム。お茶文化って素晴らしい。
一息ついたところで地下都市へ。入って早々、グングン地下へ降りていく。道は狭く、天井も低いので腰をかがめて進む。古代人が小さかったのか、それとも外敵の侵入を阻むためなのか。
複雑に入り組んでいるようで、地上と地下を結ぶ縦穴を通してあったり、石の扉を閉めて侵入者から都市を守る仕組みを準備してあったりと、考えられた設計になっている。
カッパドキアには何十個もの地下都市があると考えられているが、まだその殆どが発掘されていないらしい。まだまだこの地域は発展しそうだ。
この地下都市でさえ、その全貌は未だ不明だ。一説によると地下80mまであると言われているらしい。まだ発掘されていなくてよかった。中腰はもう限界だ。
洞窟内の全ての穴をチェックしたいのが男の習性だろう。最後に小さな穴を見つけた。もはや中腰というか小腰とでも言うんだろうか、ほぼしゃがんだ状態で進む。壁に体のあちこちをぶつけながら進んだ先は、まだ発掘途中の部屋だった。
まだ照明も設置されていないので真っ暗闇だ。インディー・ジョーンズ感が半端ない。何か特別なことをする部屋だったんだろうか、ステージみたいなものがある。
クリスタルの骸骨とか黄金の像とかはないんだろうけど、たぶんこの地球上で一番それがありそうな場所はここだ。
自分の歩行で巻き上げた砂埃が目に染みる。異様な高揚感のまま、地下都市の出口へ向かった。
とにかく降ってきたので、帰り道は登りが続く。中腰でひたすら登っていたら、暑すぎて身体からモヤモヤと湯気が出てきた。おもしろい。
日の光が見えた。清々しい。
腹が減ったので近くのレストランへ寄る。何かよくわからないけど焼き鳥みたいなものを注文。
レバーの串焼きが出てきた。レバーなんて久しぶりだな。付け合わせのサラダやらなんやらのバリエーションも多い。水までついている。
これはもしかして追加料金を勝手に取られるパターンかと警戒していたら、全て込みの料金だった。やっぱり郊外は途端に安い。
Tミサワさんは夕方からパラグライダーをするらしく、急いで戻る必要がある。
帰っていると、道端でおばあちゃんに呼び止められた。
何を言っているのかよく分からないが、恐らく道を間違えているよ的なことを言ってくれていたようだ。地図を見ると、確かに間違えていた。
おばあちゃんの娘さんも出てきた。何か飲んで行きなさいと言ってくれているようだ。
おばあちゃんが巨大な釜で何か煮込んでいる。よく分からないが、ありがたく頂くことにした。
飲んでみると、ものすごく甘いが、ものすごく美味しい飲み物のようだ。お茶ではない。
何か説明してくれているが、本当に全く言葉が通じないのでさっぱりわからない。蜂蜜のような味がするが、たぶん違うんだろう。
すると娘さんが葡萄を持ってきた。蜂蜜ではなく、どうやら葡萄の甘みらしい。蜂蜜の味がするんだけど不思議だなあ。
結局二杯も頂いた上に葡萄も一房頂いてしまった。それにしてもこの巨大釜で作った残りはどうするんだろう?もしかして煮詰めて保存するのかな?
記念に一緒に写真を撮ったら印刷して送って欲しいとお願いされた。住所を書いてもらったので日本に帰ったら送ろうと思う。
なんとか正しい道に戻ったが、Tミサワさんのパラグライダーまで時間がない。往路の1.5倍くらいのスピードでかっ飛ばす。メーターは壊れていて0km/hのままだ。そもそも制限速度なんて知らない。
幸いにも運転は慣れたし、街を通り過ぎるとき以外は見通しが良すぎる荒野を抜ける一本道。穴ぼこがない限りは安全だ。たまにあるんだけど。
おかげで予定より早くギョレメへ戻ってきた。そういえばトルコアイス食べてないですね、ということでその辺で買う。
トルコアイスあるあるのフェイントに引っかからないように裏をつくがその裏をつかれる。つまり表だ。
男性にはあんまりフェイントもかけてくれないので割とすんなりと受け取る。チョコ味のトルコアイスはめちゃくちゃ甘くて濃厚でおいしかった。
バイクの返却まではまだ時間がある。Tミサワさんと一旦別れ、僕は街外れの谷に行ってみた。ツアーのバギーが走り回っている。
砂地なのでバギーツアーがあちこちで行われているんだけど、バギーはツアーでしか乗れないらしい。僕はツアーが嫌いだ。だから自由の効くバイクをレンタルした。
バイクでもなんとか砂地は走れる。教習所でバランスめちゃくちゃいいですねと褒められただけのことはある。オフロードを走り抜ける。変なスクーターで。
この辺りはまた変わった形の岩山がニョキニョキ伸びている。気持ち悪いなぁ。
日が落ちてきたので別の場所へ移動。レッドバレーと言われる谷へ。
元々赤茶色の岩でできた谷が夕陽で真っ赤に染まるらしい。そんなもん是非見ておきたいじゃないか。
変なスクーターで山道を登る。観光バスやらを追い越し、駐車場の隅に駐車。バイクは駐車料がいらないらしい。
小さな岩に登り、谷を挟んで夕陽が沈むのを眺める。
ウエディングフォトの撮影をしている。ちょっと壮大すぎるだろう。大掛かりな撮影のようだ。夕陽をバックにするので当然ながら逆光だ。なので照明をバチバチに焚いている。
ふと気づいた。逆光ということは夕陽に照らされた谷が見えないじゃないか。
すぐに岩から降りて、夕陽に照らされた岩が見える場所へ移動する。
もう岩は赤く染まっていた。インドのピンクといい、トルコのレッドも赤くないけど、変な名前の色で表現されるよりはレッドバレーと言った方がイメージしやすいんだろうからまあいいや。
なんで自分はここに居るんだろう。なんで赤い谷を見ているんだろう。よく分からないや。
また今日も綺麗な景色を眺めているのが不思議でしょうがない。なんとなく来るつもりだったんだからそりゃ来るんだろうけど、こんなに無計画なのによくもまあうまいこと毎日毎日思った通りになるもんだ。本当に不思議だ。
夕陽が沈んだのを見て、バイクの返却時間が近いことを思い出した。ガソリンを満タンにして街へ戻る。
「良かったか?」
とレンタル屋のおじさんが言うので、良かったよと僕も言った。
カッパドキア、いつか行きたいな、いつか行くんだろうなと思っていたけど、気がついたら来ていた。ものすごい強い意志を持っていた訳ではなくて、ずっと前からカッパドキアに居る自分を想像していたら、ここに居た。そんな感覚なのが正直なところだ。だから実感が湧かない。
パラグライダーを終えたTミサワさんと合流して夕飯。メニューに「ナポリタン」という文字が見えた。
ナポリタンって日本でできた料理らしい。天津に天津飯がなかったみたいにナポリにナポリタンはないらしい。
でもギョレメにあった。注文してみたらナポリタンじゃないナポリタンが出てきた。日本も含めていい加減なもんだ。ナポリのイメージどうなってるんだ。
でも久しぶりのパスタはうまかった。
机の下に子猫がやってきた。ニャーニャー鳴いてこちらを見ている。つまり欲しいってことだろう。でもあげない。
見かねたスタッフが猫の餌のカリカリのやつを持ってきて子猫に与えた。しかし子猫は見向きもせずにいろんな客のところに行ってニャーニャー鳴いている。
遊びたかっただけだったんだろうか。誤解してごめんよ。撫でてあげればよかったな。
ギョレメは夜景も綺麗らしいので、朝日を見た丘へ登る。なんか昨日朝日を見た気がするけど実は今朝のことらしい。入場料もさすがに夜景にまでは取られないようだ。
丘を登り切って街を振り返る。そこはオレンジの優しい光に包まれたファンタジーのような世界が広がっていた。
一体ここはどこなんだ?懐かしいような気持ちにもなる。変な岩に囲まれた変な街。ギョレメ、カッパドキア。変なスクーターで走り回ったこの街、変な気持ちだ。
そうか、カッパドキアに来たんだな、とようやく気付いたような感覚になった。
次は、僕は僕をどこへ連れて行ってくれるんだろう。楽しみだ。
せんまさお
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