予約していた午前2時のバスに乗るため、バス会社の前に向かう。午前2時といえば、早朝というよりも深夜。バス会社の前で待つ人はエジプト人とは異なる雰囲気を醸し出していた。
肌の色はエジプト人よりも濃く、顔立ちも異なっている。何よりも振る舞いが異なる。なんと表現するのが適切なのか分からないが、野暮ったいように感じる。
治安も不安なので、できるだけ人目に付く場所でバスを待つ。出発時刻から30分を超えたころ、バスは出発した。バス内にはパンパンに荷物が積みこまれている。人間の重量の数倍はありそうな荷物の量。話では聞いていたが、エジプトまで仕入に来る人が大半を占めるバスのようだ。
バスに乗る前に声をかけてくれたちょっと変わり者っぽい青年が通路で寝ている。乗客から席に座れといくら注意されても叩かれても通路で寝ることをやめない。
注意した方の乗客もおとなしくしている訳ではなく、大きな声で電話をしている。まだ午前3時だ。国境越えも容易ではないことが想像できるため、できることなら寝ておきたかった。
車内がなんとか静まった隙に寝る。昼前頃、食事休憩のために停車。何も食べる気がしなかったのでトイレだけすませて出発を待った。
30分ほどで休憩は終わり、バスはバックで走り出した。向かった先はフェリー。バスのままフェリーに乗り込み、ナイル川を渡る。思ったよりも揺れないので、バスで川の上を走っているようなかんじがする。
陸に降りると国境へ向かった。エジプトの出国手続きはやけに時間がかかった。審査官にパスポートを渡し、返却を待つ。相当待った。もしかすると忘れられているんじゃないかというくらい待った。
ようやく返却されたのでバスへ向かう。僕とS-さん以外の乗客はまだバスに戻っていなかった。しばらく待つと、全員戻ってきた。これが普通なんだろう。
バスでスーダン側の国境へ向かう。国境直前で全身防護服を着た人がバスに乗り込んできた。
乗客全員に携帯式のサーモスキャナのようなものを向けて検疫の検査をしていく。そして、外国人の僕たちには新型コロナウイルスに関連して、簡易な書類を渡してきた。記入内容に特別なことはなく、連絡先や滞在ホテルなどの情報を記入した。
入国審査はすんなり終了。想像以上にあっけないものだった。その後の税関検査も荷物をひっくり返して確認されるとか聞いていたが、そんなことは全くなく、X線スキャナに通しただけで終わった。この税関検査はどちらかというと、エジプトで仕入をして戻ってきている人たちに対して厳しく行っているように見えた。
バスが国境を通過してくるまで国境前の砂漠で待つ。そう、砂漠なのだ。
昼を少し過ぎ、灼熱の太陽が肌を焼く。長袖を着ている方が涼しいというのが分かる。
日光の下で待っていたが、いつまでたってもバスは来ないので、止まっていたトラックの日陰に移動した。日光が当たるか否かでこんなにも体感が変わるのか。
ドイツ人2人組が声をかけてきた。まさかスーダンで他の旅行者と会えるとは思っていなかったので少しほっとした。
2人は電車旅が好きらしく、アフリカの電車情報を教えてくれた。更に、どうしようか悩んでいた両替についても情報をくれた。というのも、スーダンには公定レートといわゆる闇レートが存在しており、両替商は闇レートを提示してくるのだが、公にそのレートが発表されている訳ではないので、少ない情報から自分で計算して大体のレートを掴んでおくことしかできないのだが、その計算にも自信がなく、国境での両替を控えることにしていたのだ。二人の話から、自分が計算していたレートがそこそこ正しいと分かり、国境のゲート付近にいた怪しい男にエジプトポンドからスーダンポンドへ両替してもらった。噂の通り、スーダンではエジプトポンドが高く売れた。
日陰でしばらく待っていると、ようやくバスが国境を越えてきた。乗客もまばらにバスへ戻ってきた。先ほどまでバスの後ろ半分を埋めていた荷物は跡形もなく消えており、恐らく国境付近で待機していた業者に引き渡したことが想像できる。
国境から1時間ほど走り、ワディ・ハルファという街へ到着した。バスから降り、荷物を背負っていると、突然「コロナ!コロナコロナコロナコロナコロナ!」と野次が飛んできた。この国もか、と落ち込んだ。
しかし、エジプトの野次と違い、なんだか陰湿さのない笑顔で目を見てきながら野次を飛ばしてくるので反応に困る。
目星をつけていた宿へ向かい、1泊する旨を伝えた。この街はあくまで経由地。
しかし僕たちにはこの街でやる必要があることがある。それは滞在登録というもので、旅行者は入国から72時間以内に警察署で滞在登録というものをする必要があるのだ。
スーダンのビザ申請の時に出会ったリチャードさんが先にスーダンに入国しており、この街で滞在登録をしなければ後々大変だというメッセージを送ってくれていた。
しかし登録する場所が分からず、街の人に聞きながら進んでいく。
ようやく登録場所の警察署に到着し、入り口にいた人に滞在登録をしたいと伝えた。
「今日はもう閉めてしまったから、明日の朝8時に来なさい」
どうやら警察署No2の方だったらしい。言われた通りに今日はおとなしく宿へ引き返すことにした。
宿のオーナーからおすすめされていたレストランでチキンの炭火焼きを注文。生の玉ねぎも添えられている。ケバブ文化がここまで届いているようだ。
おいしいおいしいと食べ進めていると、突如奥歯に激痛が走った。そう、小骨が歯と歯の間に挟まったのだ。小骨は全く取れる様子もなく、行き場を失った奥歯は徐々に隣の歯を押し始め、あれよあれよという間に上の左半分の歯全てが痛み始めた。
もう食事どころではない、S-さんに店に残ってもらい、宿に走って戻る。裁縫セットから針を取り出し、つまようじの要領で小骨を取ろうとする。しかし小骨は完全に歯間にフィットしており、微動だにしない。
一旦店に戻って残った食事をビニール袋に入れてもらい、会計を済ませてから再び宿に戻る。
このまま小骨が取れなければ、歯医者に行くしかない。しかし、申し訳ないがスーダンの歯医者を信用できない。つまり、帰国するしかない。
まさかチキンの小骨で帰国なんて想像もしていなかった。
焦る気持ちを抑え、針で骨をつつきまくる。そして約30分後、小骨は取れた。圧迫されていた歯が解放されるのが分かる。まだ違和感は残っているが、徐々に回復することを祈る。
せんまさお
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