早起きして宿の食堂へ向かう。皆いつもと変わらない様子で朝食を食べている。
やはり考えすぎだったんだろうか。寝て冷静になったのか、少しは気持ちが落ち着いていた。
もしかしたらいつ食べられなくなるか分からないので、バイキング形式の朝食を目一杯食べる。
今日は誕生日だ。なぜ誕生日にこんな気持ちにならなければならないのか、なぜ争いから逃れなければならないのか。
荷物をまとめて空港へ向かう。トルコ西部のイズミールへ向かう。
国内線とはいえ、トルコは東西に長いため、東部のワンから西部のイズミールへは2時間もかかる。
チェックインをさっさと済ませて待機。飛行機へ乗り込んだ。
イラン・イラク戦争の際、イラクはイラン上空を飛ぶ飛行機を全て撃ち落とすと発表した。
その話が頭をよぎる。もしかすると飛行機も撃ち落とされるとかあるのか?
普通に考えると、そんな危険性はまずないだろう。でも本当に全くリスクはないのか?いざ自分の身に起こってみれば、100%の保証がないというのは酷く不安に感じる。
不安な気持ちのまま搭乗。窓側の席だったので外をボーッと眺めていた。
荒野、山、湖を越えていく。他の飛行機も見えた。近くで見ると飛行機が恐ろしいスピードで飛んでいることが分かる。
今、アジアの旅が急に終わろうとしている。イスタンブールを流れる海峡を渡ればもうヨーロッパが見えてくる。
グングンと進む飛行機に少しの寂しさと物足りなさを感じた。
イズミールへ到着。この街も全く危険な様子はない。
誕生日なので少しだけ良いホテルを予約しておいた。
チェックインすると、すぐにニュースを確認した。
具体的な戦闘地域がはっきりと分かった。ワンの街よりは西寄りの地域で戦闘が行われているらしい。
向かう予定だったシャンルウルファの南50km地点では空爆が行われ、多数の死者が出たとの報道がされている。やはり予定を変更したのは正解だったようだ。
在イスタンブール日本国領事館から2時間前に注意喚起が出た。シャンルウルファへは「くれぐれも近づかないように」とのことだ。調べておいてよかった。調べていなければ、明日にはシャンルウルファに到着するところだった。
イズミールについては特に注意喚起もない。逃げる場所としては問題ないようだ。
誕生日なので日本食レストランへ。寿司と唐揚げ、ラーメンを注文。どうせフェイクの日本食だと分かってはいたが、似ていないよりはマシだ。
寿司が運ばれてきた。驚いたことに見た目はほぼ完璧だ。やたらとマヨネーズや七味がかかっているし、全て炙られているが、元々かっぱ寿司ではハンバーグ寿司とかを食べる派に所属しているのでコレはこれでアリだ。
醤油をつけて食べる。うまい、これは普通に日本でも通用する。サバ、サーモン、マグロ、どれもおいしい。
次に唐揚げ、ではなく間違えてエビフライが出てきた。確認したら、あっ、間違えたみたいな慌てた動きをしていたので、かわいそうなのでそのままエビフライを食べることにした。まあそこそこうまい。
最後にラーメン、ではなく、ブチブチに切れた米の麺に餡掛けが乗った謎の料理が出てきた。これはうまくない。
帰り道にケーキ屋さんに寄った。一人で食べるには少し大きい苺とチョコのケーキ。
「ロウソクは何本つける?」
29本欲しかったが、1本でいいですと伝えた。あくまで、友達とか恋人とか家族とかそういう人を祝うんですみたいなテンションで、決して一人でロウソクに火をつけて吹き消す予定なんですということを悟られないように、架空の誰かを思い遣る気持ちでケーキ屋さんをやり過ごした。なぜか花火もつけてくれた。
部屋に戻り、ロウソクをケーキに刺す。火災報知器が鳴りそうなので花火はやめておいた。ロウソクに火をつけて走って電気を消しに行く。
もしかしたら空爆を受けた人たちは今暗い中で困っているんじゃないか。マズイラーメンもどきでも、あったかい飯を食べられるだけ幸せなんだろうな。
火を眺めながら後ろめたい気持ちで今日を思い返す。僕はお金の力で遠くまで逃げることができた。しかし空爆で亡くなった方々は逃げることすらできなかった。
寿司、美味かったけど、あれだけのお金があれば一人くらいは遠くまで逃げられたのかな。
去年の誕生日はフィリピンの語学学校で友達に祝ってもらった。
ロウソクの火を吹き消したら、みんなに突っ込まれた。
「火を消す前に願い事を言わなくちゃ!」
どうやら、韓国と台湾ではそういう文化があるらしい。日本にはそういうのがたぶんないから何も言わずに消してしまったのでやり直した。
その時何を願ったのか忘れてしまったけど、今年は平和を願って吹き消した。
せんまさお
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