どうやらそろそろ着くらしい。車掌さんが車内を歩いてアナウンスしている。
荷物棚からみんなの荷物を降ろす。助け合いだ。おじいちゃんの荷物は出口付近まで運んでおいた。
しばらくすると駅に到着。お世話になったみんなに別れの挨拶をして電車を降りる。
市内までバスに乗りたいが、カザフスタンのお金がない。そして両替所もなければ、今日は日曜日で銀行も開かない。ATMは市内にしかないとのこと。
近くの商店に頼み込むが、ウズベキスタンのお金は両替してあげられないとのこと。
困っていると、これからウズベキスタンに行くという男が声をかけてくれ、無事にバス代くらいのカザフスタンテンゲを手に入れることができた。
バスに飛び乗り、市内へ。シャワーを浴びるために宿まで歩き、宿代の支払いはちょっと待ってもらって両替所探し。しかしウズベキスタンスムを両替できる店は見つからない。
情報を集めようと宿に戻ると、日本人とバッタリ会った。まさかこんな所で会うとは思ってもみなかった。
両替所を見かけたとのことだが、ウズベキスタンスムは両替できないらしい。念のため行ってみたがやはり無理だった。
いや待てよ、今晩空港に行くんだから空港で両替できるじゃないか、と閃き、ATMでテンゲを下ろして宿代を支払うことにした。
昼飯を食べ、シャワーを浴びてから先ほど出会ったIクさんとシーシャバーへ。
忘れてたけど、シーシャの本場近くじゃないか。日本より格安で楽しむ。
Iクさんは陸路縛りで旅しているらしく、今はアゼルバイジャンのビザ待ち中らしい。
というのも、空路で入国すればアライバルビザが取れるのだが、陸路はEビザか大使館申請の通常のビザが必要だ。そしてアゼルバイジャンのビザ代は、世界で日本国籍者だけが無料なのだが、Eビザの場合は料金が発生することになっている。
Iクさんはアクタウにある大使館申請のため、発行待ちが発生しているのだ。
ちなみに、空路は10,150円程度。船で渡る場合は80ドル(8,480円程度)+ビザ代(Eビザの場合は20ドル(2120円))だが、仮に大使館申請にしてビザ代を浮かせても、待ち時間分の宿代等の生活費を考えると、日本人の場合は空路の方が安くなる仕組みだ。陸路縛りは大変だ。
夕方になり、僕はカスピ海を見に行った。カザフスタン人がビーチで遊んでいる。カスピ海の塩分濃度は海水の1/3らしい。
もう空港に向かう時間が迫っていたので、すぐに宿に戻った。宿にタクシーを手配してもらう。
Iクさんとお別れし、車で30分、アクタウ空港に着いた。さっそく残ったテンゲとウズベキスタンのスムの両替をしようと両替所を探すが見当たらない。
「この空港に両替所はありません」
インフォメーションのお姉さんが教えてくれた。仮にも国際空港なのに両替所がないだなんて。実はうっかりウズベキスタンのお金を3,000円分くらい残してしまった。
「えっえっえっ」
僕は3,000円あったら日本でてもみん行けるやんという焦りのあまり、お姉さんにベリージャパニーズな反応をしていた。
ションボリしてお姉さんの元を去っていると、エクスキューズミー!と後ろから聞こえてきた。お姉さんが呼んでいる。
「あそこに立ってるおじさんが両替してくれるはずよ」
指が指す先には怪しげな男が立っていた。恐らくアンオフィシャルに両替屋をやっているんだろう。
「テンゲをドルに変えてください」
オッケー、と僕のテンゲを受け取り、ジャケットからドル札を出して渡してくれた。さすが暗算で、まあまあ納得のレートだ。
ちなみにウズベキスタンのスムも両替してくれませんか?レート悪くていいので、と聞くと、
「トイレでケツ拭くのに使え」
と笑っている。僕も笑うしかなかった。
ウズベキスタンのスムを始め、中央アジアのお金は価値が動きやすいようで、どこも自国通貨とドルやユーロなどの安定している通貨以外は避けているようだ。
僕は涙を流しながら(嘘)スムをカバンにしまった。
チェックインを先頭で済ませ、ゲートへ向かう。ラウンジという概念もなく、硬い椅子に座って待つこと1時間半。搭乗完了。
一人で飛行機に乗ると、僕はアジアでは比較的体格がいいので、緊急脱出口の列に座らされる。足元が広くてお得なのだ。
通常であれば英語で脱出の際の説明を受ける(ドアの外し方等)のだが、ロシア語とカザフ語だけの説明で全く理解できなかった。僕は不適合者だと思う。お礼に飴まで貰う。
約50分間のフライトでアゼルバイジャンの首都、バクーに到着。
アライバルビザの申請に向かう。スタッフに声をかけると、全て変わりに手続きをしてくれた。
「ジャパニーズ、フリー」
係員、ドヤ顔である。世界で唯一、日本人だけがビザ代無料。ありがとう、アゼルバイジャン。
もう夜の11時半なので空港のベンチで寝ようかと思ったが、直近の二晩を狭い電車で寝ていたので、ベッドで寝たい欲が極めて強くなっていた。
空港を出るが、エアポートバスはまだまだ出発しないようだ。どこに着くのかも知らない。夜も遅く、治安も分からないので、タクシーで宿まで向かうことにした。
試しに白タクの客引きに捕まってみたが、やはり高額をふっかけられる。認可受けてます的なデザインのエアポートタクシーに声をかけてみると、メーター制ということなので乗ってみた。若い兄ちゃんだ。
乗ったはいいが、メーターが見当たらない。メーターどこにあるのと聞くと、到着したら表示されるとのこと。
綺麗なタクシーだが、エアコンは効いておらず、窓を開けている。窓の外からどこか懐かしい香りが入ってくる。あれだ、東南アジアの香りだ。
僕はてっきり街の香りは食べ物やそれから作られる体臭からできているのだと思っていたが、アゼルバイジャンと東南アジアが同じ香りだなんてどういうことなんだろう。
「僕はアリ、モハメド・アリ」
たぶん嘘だろうな。そしてメーターが最後に表示されるのも嘘だろうなと思った。そんなのメーターの意味がないからだ。
「僕はオノ、まさおって呼んでくれよな」
街の灯りが眩しい。バクーは大都会のようだ。
宿の手前150mのところで僕は座席から吹き飛んだ。交差点で車とぶつかりそうになり、急ブレーキを踏んだのだ。
僕はスネを打って痛みでのたうち回った。サッカー選手並みに後部座席で痛い痛い喚いていたが、そんなに相手にされなかったので少しムッとした。
ふとメーターを見ると、金額が表示されている。たぶんメーターの電源をオンにするのに気を取られてブレーキが遅れたのだ。
【メーター(3.88)】
「もうすぐ着くから、38.8マナト(2,640円程度)ね」
いや、それ3.88マナトだろ。と注意すると、違うよー、38.8マナトだと言う。そんな訳がない、小数点ははっきり見えている。
いや、最後の1桁どこに消えたのと聞く。そうこうしてる間に3.94に表示が変わった。ほら、この近距離でこんなに上がる訳ないじゃん、と聞くと、しらばっくれている。
ここでやる気スイッチをオンに切り替え、僕は全力の大声で叫んだ。
「オイ!!!騙してんじゃないわよ!!!」
ドライバーが驚いてノープロブレム、ノープロブレムと言い出した。
僕は子を守るメスゴリラのごとく、運転席と後部座席の間にあるアクリルの透明な板を叩きまくる。
「これ、3.94だよな?これ3.94だよな?なんで騙した!なんで騙したんだー!!!」
アイムソーリーと怯えながら言っている。
「宿まで行けー!!!」
とりあえず宿の前に着くと、ドライバーを運転席から引っ張り出し、「警察行くぞ!こっち来い!」と宿の中に引っ張り込もうとするが、勘弁してくれとのこと。
じゃあ3.94マナトでいいよな?と聞くと、35マナト欲しいと言う。
「ヘルプミー!!!ヘルプミー!!!」
僕は街中に響き渡る声で叫んだ。ドライバーはガクガク震えながら僕をなだめ、「アゼルバイジャンでは夜に大声を出してはいけないんだよ?」とか当たり前のことを言っている。
僕は「お前のせいだからな!お前が俺を騙そうとしたから俺は叫ぶし、お前は警察に行くんだ!牢屋に入るんだ!」と伝えた。
ドライバーはガクガク手足を震わせながら謝ってくる。
「俺の荷物を降ろせー!!!」
ドライバーはもう上の空で助手席に置いた僕の荷物を取ろうとドアに手をかけるが、自分で鍵を掛けていたようでドアは開かない。
運転席に戻って内側から鍵を開けようとするが、そのまま逃げられたら困るので僕も運転席に一緒に乗り込んで監視する。
「なんで騙した!!なんで騙した!!俺はアゼルバイジャンが嫌いになりそうだぜ!!」
騙してごめんなさい、騙してごめんなさい、と泣きそうな顔で謝っている。
「オッケーイ!!!」
許すことにしたが、ちょっとやりすぎたことを申し訳なく思い始めた。さすがにアクリルの板は叩いちゃいかんかった。
彼は今にも崩れ落ちそうなほどヘロヘロになっている。そりゃそうだ、得体の知れない東洋のデブに深夜に絡まれているんだ。
「ごめん、俺は悪い日本人だ。」
ドライバーが言った。
「君は悪くない、僕は悪いアゼルバイジャン人だ…」
僕は「知ってる」と伝え、30マナト(1,870円程度)を渡した。実はタクシーに乗る前に、メーターがどれくらい回るか大体でいいからと聞いており、30~35マナトという答えに納得して乗っていたのだ。相場は11~15マナトと知っていたので、これボッタクリだなと分かった上で、他に見つかりそうもなかったので乗ったのだが、あまりに舐めたことをするので反省させたかっただけだったのだ。
「これで十分だろう?」
そう言うと彼はホッとした顔になり、僕にハグしてきた。本当にごめん、と彼は少しゲッソリした笑顔で去っていった。
宿の人に聞かれてなかったかな、と恐る恐る宿に入ると、スタッフは深夜にもかかわらず僕の到着を待ってくれていたようで、君がタカシオノだね、と宿を案内してくれた。
「僕はタカシオノ、まさおって呼んでくれよな」
近くに水を買いに行こうと道を歩いていると、酔っ払った若者の集団に、「ヘイ、チャイニーズ」と小馬鹿にしたジェスチャーと表情でケラケラ笑われた。僕はもう一度大騒ぎしようと思ったが、普通に怖かったのでアイムジャパニーズと答えて去るしかなかった。
国籍をバカにするのはおかしいよ。中国人の友達までバカにされたような気がしてムカムカする。アゼルバイジャン人であることの何がそんなに中国人より偉いんだ。
近くのコンビニに入ると、店員とその友達がレジ前で屯している。ハローと言うと、どこから来たのと聞かれる。日本から来たよ、と伝えると、ハッとした顔になり、この辺りでは最も礼儀正しい、左手を胸に当てながらの握手を求められた。
「ウェルカムトゥーアゼルバイジャン」
もうどの反応がアゼルバイジャン流なのか混乱する。騙すのか、バカにするのか、親切なのか、礼儀正しいのか。
そんなときインド人の言葉を思い出した。
「人は指と一緒。同じ長さの指はないでしょ。みんなそれぞれ違うんだよ。」
アゼルバイジャン、早速いろいろあったが、まだ入国してから2時間も経ってない。どうなるんだ、アゼルバイジャン。
せんまさお
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