荷物をまとめ、宿のオーナーの車でバスターミナルへ向かう。馬旅のスタート地点はウランバートルからバスで8時間の場所にある。場所の名前は知らない。
かつて広島県にある会社が使っていたであろうシールが貼られたトヨタのプリウスを運転しながらオーナーが呟く。
「モンゴルはここ数年で変わってしまった。特に物価は急上昇している。中国企業が進出してきてからというもの、5年前は牛肉の価格は1kgで3,000トゥグルグ(120円程度)だったのが、今は10,000トゥグルグ(400円程度)以上する。モンゴルの牛は天然の草だけを食べて育っているから高品質なんだ。それを中国企業が買い占めているんだ。」
「街のあちこちでNice to CUという24時間営業のコンビニを見ただろう?去年までは全くなかったが、韓国企業が一年であちこちに作ったんだ。」
そういうオーナーが運転しているプリウスだって恐ろしいほどのシェアを占めている。感覚的にはウランバートルを走る車の3割くらいはプリウスである。中国の天津市の港に運ばれた日本の中古車は鉄道でウランバートルまで運ばれるそうだ。
良くも悪くも日中韓の影響をモロに受けているようだ。土地こそ広大だが人口が300万人ほどしかいないのだから無理はない。横浜市の人口より少ないのだ。
ドラゴンバスターミナルでオーナーと別れ、バスに乗り込む。韓国製のバスのようで乗り心地は悪くない。ウランバートル近郊は道もしっかり舗装されているので大きな揺れはない。
出発からしばらくすると、早くも辺り一面の草原地帯に出た。ウランバートルもそう大して大きくないようだ。
いくつものホイップクリームのような雲が空に浮かんでいる。一定の高度以下は雲が全くないので、透明な板の上に雲がポンポン乗せられているようだ。
2時間ほどしてパーキングエリアが見えてきた。しかしバスはそれをスルーして1キロほど先の草原に止まった。トイレ休憩だ。なぜここなのか。
各々が広大な大地に陣取り、おションションする。女性も遠くの方でおションションしている。ここまで何にも遮るものがないと少し恥ずかしい。
またもやバスに揺られること2時間ほどしてパーキングエリアに到着。夕飯のようだが腹が減っていないので、売店でスナックとクッキー、ベルギーワッフルを買った。
出発した車内でそれらを食べる。ベルギーワッフルは2枚の間にバター風味のクリームが挟まっている。生地にはメープルシロップが少し染み込んでいる。うまい、うますぎる。
食べ終わると寝てしまった。起きた頃には少しデコボコした道を走っていた。ようやく辺りが暗くなった22時ごろにバスは到着した。
到着とは言うがこの後どうなるのか知らない。恐らく誰かが迎えにきてくれるんだろうが誰かは知らない。ここがどこかも知らない。
荷物をバスから引っ張り出したところでその誰かはやってきた。誰かがこの誰かに馬旅をする日本人だと伝えてくれたんだろう。
その誰かの車に乗り込む。渋いロシア製のバンの車内はガソリンの匂いが充満している。ガソリンスタンドの匂いは好きだが、こう密室に充満していると鼻がねじ曲がりそうだ。
未舗装の道を進む。デコボコなんてもんじゃない。低速で進まなければ車もろとも身体がバラバラになりそうだ。
一緒に馬旅をするAラさんの他にもう一人の乗客がいる。中国からの留学生トビーだ。彼は親がモンゴル人らしく、今はウランバートルに留学しているらしい。
ピックアップに来てくれた誰かは英語が話せなかったので助かった。というか馬旅のガイドも英語が話せない。英語ガイドや日本語ガイドは高くて手が出せないのだ。
トビーが状況を説明してくれた。どうやらこれから夕飯を食べてからゲル(遊牧民が住むモンゴルの伝統的な移動式住居)に向かう。そこで馬を借りるそうだ。
激しくシェイクされるロシアンバンは突然家の前で止まった。促されるまま、家の中に入っていく。知らないおばちゃんからご飯をいただく。
獣の匂いが強い肉とニンジン、ジャガイモの入ったピラフのようなものだ。それに酸っぱいお茶の組み合わせ。
このおばちゃんが誰なのか、これが何の肉なのか、なぜお茶が酸っぱいのか、僕は何も分からない。
食べ終わるとおばちゃんもロシアンバンに乗り込み、再び夜道を走り始めた。オフロードとしか言いようのない道を進む。遊園地の4Dアトラクションの3倍は揺れる。ちなみに、ZEEBRAさんがGRATEFUL DAYSで歌う「荒れたオフロード」について、荒れてないオフロードはオフロードじゃないんだから頭痛が痛い状態になってるんじゃないかと昔からずっと思っている。
ロシアンバンは川に差し掛かった。当然のように川に突っ込み進む。道とは言ったが、正しくは「よく車が走るから草が生えていないところ」だ。当然舗装なんてされていないし川だってある。
宿のオーナーが「ロシアの車は元は軍事用に作られた」と言っていたことを思い出した。どこか戦車を連想させる無機質なデザインは昔から変わっていないらしい。無骨、そしてミステリアスな外観に男心がくすぐられる。1時間半ほどデコボコの暗闇を進み、ゲルに到着した。
車から降りても鼻にはガソリンの匂いが染み付いていた。分かってはいたが当然シャワーなんてものはないようなので、そのままゲルで寝た。
せんまさお
最新記事 by せんまさお (全て見る)
- 【世界一周#411】アレナメヒコ - 2024年9月22日
- 【世界一周#411】アレナメヒコ - 2024年9月22日
- 【世界一周#410】グアダルーペの聖母マリア - 2024年9月21日
コメントを残す