ガダーレフを出て国境の街ガラバトへ向かう。
バスから降りるなり、男に話しかけられた。
「まず警察署でセキュリティチェックを受ける必要がある」
それは事前に調べていたので分かっていたが、勝手に案内し始めるので嫌な気がしていた。チップを要求するのか、それとも知り合いの店にでも連れて行かれるのか。
警察署でセキュリティチェックという名のパスポートチェックを受け、次は税関に向かう。
またもや先ほどの男が勝手に案内してきた。
税関では特に荷物のチェックを受けることもなく、またもやパスポートをチェックされただけで終わった。
先ほどの男が先導し、出国審査へ向かう。何の意味があるのか分からないが、入国時に記入した検疫に関する書類と内容の違わない書類を記入し、パスポートと共に提出。しばらく待っていると、出国印が押されて戻ってきた。
例の男と共に国境を超える。
「ここの線の向こうがエチオピアだ!」
興ざめするから余計なことを言わないでほしい。そういうロマン的な瞬間はじっくり自分の中で噛み締めたいタイプなのだ。
国境を超えると、白衣に身を包んだ人からこちらに来るように指示された。そう、新型コロナウイルス対策だ。
こっちに来いというので行くと、これ以上近づくな、と止められた。
一定の距離を保ちながら、いくらかの質問に答える。
回答に問題がなかったのか、木の棒で造られた塀の中に入れてもらえた。今度は検疫に関する書類に記入していく。
数日前にエジプトでも感染者が出たことから、エジプトでの過ごし方などを細かく質問された。
ようやく検疫チェックは完了し、入国が許可された。ご迷惑おかけします。
税関チェックを受ける際、所持品の薬について詳しく質問された。一つ一つ説明していたが、痔の薬ボラギノールについては説明するのが恥ずかしかったので、お尻を指さすだけで勘弁してもらった。コロナの薬はないのか?と冗談を言ってきたのにはムッとした。
さあ、先ほどの男がまたやって来た。そもそもこの男は入出国の審査を受けていない。恐らく国境周辺の国民は地域限定で行き来が自由なんだろう。
男は、両替しないかと持ちかけてきた。どうやらエチオピアでも両替の闇市場があるそうだ。ようやく男の目的がはっきりしたので、少し心を許した。
公定レート、闇レートにかかわらず、とにかく現地の通貨がなければここから移動することができないので、ひとまず少額を両替してもらうことにした。
国境から数キロ離れたバス乗り場にトゥクトゥクで行こうとしたところ、バスターミナルの人は英語が話せないから俺がついて行ってやる、と、無理やり乗り込んできた。この時に拒否しておけばよかったのだが、男が紹介した両替は済んだので、半分信じてしまっていた。
バスターミナルに到着する手前で今日の目的地のゴンダール行きのバスが出発しかけているのが見えた。男がバスを止め、僕らの荷物を勝手に乗せはじめる。
料金は、と聞くと、400ブル(1,320円程度)とのこと。国境を越え、物価があまりよく分かっていなかったが、スーダンよりは高いにしても、ちょっと高いなと思った。しかし、早く移動したいという気持ちと疲れから、了承して乗り込むことにした。
出発前におしっこだけしたかったので、おしっこをしていると、バスは出発してしまった。僕の荷物とSーさんを乗せて。
焦ってトゥクトゥクに乗って追いかける。別のバス会社の男が怒っている。どうやら僕たちの取り合いに負けたらしく、トゥクトゥクの進路を妨害してくる。ドライバーは縁石ギリギリを攻めるドライビングテクニックで妨害を避け、走るバスを追いかける。どうやらバスも別の会社の妨害から逃げるために出発していたようだ。
バスに追いつき、乗り込む。荷物とSーさんはバスの中に乗っていた。一安心。
荷物をバスの屋根に括り付け、再び出発する。道は舗装されているが、平らというわけでもなく、猛スピードで走るので、少しの段差で激しく跳ねる。身体も跳ね回るが、何より屋根に載せた荷物が落下しないか心配だった。
しばらく走ると、検問所で停車させられた。荷物を開けてチェックされる。後から知ったことだが、スーダンから銃器を密輸する人がいるらしく、それを摘発する目的があるらしい。当然銃器のようなものは持ち合わせていないので、あっさりと解放される。
1時間ごとくらいに検問が設定されており、何個目かの検問では屋根の上に括り付けた荷物まで確認すると言われた。
バックパックには南京錠をかけてあったので、自分も車の屋根の上まで登り、屋根の上で荷物を開けて見せた。
ふと屋根の上から周りを見渡すと、それはそれは美しい景色が広がっていた。思わず写真を撮り、席に戻った。
いよいよゴンダールに近づいてきたな、と思っていると、突然終点だと言って下された。また騙された。あの国境で勝手に案内してきた男が目的地を偽って伝えてきていたのだ。
ゴンダールから10kmほど離れた街につき、ゴンダールに行くには何かに乗り換える必要がある。
その時、一人のおじさんが話しかけてきた。
「ゴンダールに行くにはトゥクトゥクがおすすめだ」
十中八九嘘だと分かる。僕たちはバスで行く、と道に出てバスを探し始めた。
ゴンダールに行くというバスに乗り込むと、さっきのおじさんもバスに乗り込んできた。そして料金を今払えと言ってくる。
降りるときに払う、と怒り交じりの強気で伝えるとおじさんはバスから降りてどこかへ行ってしまった。
しばらくバスに乗っていると、無事にゴンダールの街に着いた。
バスから降り、目星を付けていた宿を探していると、少年が声をかけてきた。
「どこに行くの?え?エチオピアホテル(仮)なら僕が働いているホテルだよ!」
そんな旨い話があるわけないと思いつつも、彼についていくことにした。そして、目星をつけていたエチオピアホテルはオーナー不在で、ほかの宿を紹介するという話の流れになった。
いつの間にか、少年の他に4人のおじさんが集まってきており、宿に全員ついてきた。
その宿はかなりボロボロで、話と違い、部屋にWi-fiは届かず、トイレは流れず、シャワーは水のみ。しかし、あまりの疲労とノドの渇きで他の宿を探す元気は残っていなかった。
言っていたことと違う、と半ばキレ気味で抗議していると、一人が申し訳なさそうに誤ってきたので、少し気が晴れた。
一階はレストランになっており、そこで飲み物を買ってレストラン前のベンチに座って休む。宿についてきた男たちが僕を囲む。
「両替しないか?」
「Simカードを買わないか?」
「ツアーに参加しないか?」
一服しているんだから今は声をかけないでくれと伝えたが、こちらの事情なんてお構いなしでマシンガントークを打ち込んでくる。
今日は疲れたから何もしない、と男たちを追い払った。
ところで、エチオピア人の女性はかわいい。そもそも黒人女性をあまり見たことがないので、比較することは難しいが、少なくともエチオピア女性はかわいい。正直、ヨーロッパ系の女性よりもかわいく思う。
夕飯にバーガー屋さんに行く。今日も例のごとく朝食昼食をとっていなかったので、スペシャルバーガーという一番高いバーガーを注文。巨大なバーガーと山盛りのポテトを食べた。
宿に戻ってくつろいでいると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。開けてみると、昼間の男たちの内の一人の男がいた。
「SIMカードを買わないか?」
いらないと伝え、ドアを閉める。
数分後、再びノックが聞こえた。
「両替をしないか?」
しないと伝え、ドアを閉める。
更に数分後、ノックが聞こえた。
「何度もごめん、オーナーからジュースを無料でプレゼントすることになった。到着したときに飲んだジュースの代金を返金したい。細かいお金がないから100ブルくれないか?」
意味が分からないので詳しく聞いてみると、ジュースの代金が二人分で30ブル。しかし小さい額のお札を持っていないから、100ブル渡してくれたら向かいの店で崩して30ブルを渡すことができる。とのこと。
説明を聞いても理解できない。彼の説明によると、僕は100ブルを彼に渡すと30ブルを返してもらえることになる。
それだと僕が70ブルの損じゃないか、と伝えても、恐らく算数ができない彼は理解できないようだった。
それなら、僕たちは明日もう一本ずつジュースを飲むから、それを無料にしてくれたらいいよ、と伝えると、一人一本まで無料なのだから二本目は有料だと言う。こうも話が通じないのか。
この辺りで少し怪しさを感じていた。
言っていることがおかしいと彼を責めていると、オーナーに確認してくると言い始めた。僕たちも一緒について行く、と言うと、彼は慌てはじめ、「僕の立場が悪くなるから来ないでくれ」と本気で僕たちを引き留めはじめた。
もうどうでもいいので、今からジュースを2本持ってきてほしいと伝えると、彼は走ってフロントがある1階へ降りて行った。
そして彼が帰ってくることはなかった。
Wi-Fiが部屋の外にある階段付近でしか繋がらないので、座り込んでいると、他の宿泊者が声をかけてきた。
どうやらエチオピア人らしく、かなり陽気な方々でえらく盛り上がった。
話の流れでタバコを交換した。日本のタバコを持っていたので現地のタバコと交換すると、もう一本欲しいとのことだった。仲良くなったのでまあいいやと思い一本渡すと、お金を払いたいと言ってきた。そんな事を言われたのは初めてだった。彼の律儀さに驚いた。エチオピア人、陽気すぎるけど、結構好きだ。
せんまさお
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