【問題提起】ラクガキから学ぶ社会

主に西洋の文化であるストリートアート。

街をカンバスとして壁やら地面やら柱やらあちこちに、ペンキやスプレーを使って描くものです。

人によってはアートとして見られますが、描かれた側からすると「ラクガキ」です。(単純にラクガキにしか見えないものもあります)

あちこちの国でストリートアートや単なるラクガキを見つけたのですが、なかなかメッセージ性の強い物がいくつかありました。

今回は世界各地で見つけた、少し考えさせられるストリートアート、ラクガキをご紹介します。

注意
ストリートアートは許可を取っているものであれば問題ありませんが、大半は許可を得ていない犯罪行為です。当記事は犯罪を助長する目的はありません。



WE ARE ALL LIVING UNDER THE SAME SKY(ボスニア・ヘルツェゴビナ、モスタル)

意味

私たちは皆同じ空の下に住んでいます

背景

ボスニア・ヘルツェゴビナは1993~1995年まで内戦が続いていました。この落書きを見つけたのは古都モスタル。自然に囲まれた美しい街です。

ユーゴスラビアからの独立をきっかけに、ボスニア・ヘルツェゴビナの地域に住んでいた民族(ボシュニャク人、セルビア人、クロアチア人)の間で内戦が勃発しました。

モスタルには「スナイパータワー」と呼ばれる廃墟があります。内戦当時、このビルからスナイパーが敵対する民族である通行人を狙撃していたことから、こう呼ばれるようになりました。

現在、スナイパータワーは立ち入りが封鎖されています。しかし、立ち入る人が後を絶たず、内部には数々のラクガキが描かれていました。(封鎖はしているが管理はしていないようで、実質的に立ち入りを見逃しているような表示《足元注意》が見られた)

この内戦は民族紛争と言われていますが、実際には支配者層の利権の奪い合いから始まったものです。当時、日本人ジャーナリストがボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボに取材にかけつけました。銃弾飛び交う市内で見たものは、単なる民族紛争ではありませんでした。

取材したのはセルビア人女性。彼女は負傷したボシュニャク人が入院する病院で食事を作っています。なぜ敵対する民族を助けるのか。

彼女はこう言いました。

「昨日まで一緒に過ごしていた人たちをどうやったら急に憎むことができるの?」

なんとなく「民族紛争か、憎み合っていたんだろうな」、とぼんやりしたイメージしか持っていませんでしたが、確かに今日から近所に住むあの人を憎め、殺せ、と言われても、そう易々とできることではありません。

結局のところ、争いは権力者の判断で始まります。なぜ争うのかと言えば、権利を主張するためです。その権利は基本的には利益のことでしょう。つまりお金です。

そんなものに巻き込まれた住民の方が気の毒です。

内戦の終結から約25年が経過しましたが、当時を知る年代の方々の間にはまだまだわだかまりが残っているそうです。

そう簡単に解決する話ではないのかもしれませんが、このラクガキを描いた若者であろう人は、民族に関係なく、同じ空の下に住んでいる仲間じゃないか、と訴えているのではないでしょうか。

WELCOME TO TOURIST LAND(ギリシャ、クレタ島、ハニア)

意味

観光地へようこそ

背景

ギリシャのクレタ島は同国最大の島です。歴史は長く、数多くの遺跡が残っていることでも有名です。温暖な地中海性気候や自然の景観も豊かだということから、地中海で人気の観光地です。

ハニアという街の港には、街を象徴する大きな灯台があります。このラクガキは、その灯台をディズニーのシンデレラ城に見立てた、ディズニーのロゴのパロディ作品です。

「Welcome」ということなので、歓迎してくれているのは嬉しいことです。

TOURIST GO HOME(スペイン、サンティアゴ・デ・コンポステーラ)

意味

旅行者は帰れ

背景

スペイン各地で見かけたラクガキです。もちろんスペイン人が皆このように思っているという訳ではないそうです。主に少数の左派組織が「反観光客」運動を行っているようです。

左派組織の主張としては、「今日の観光モデルは人々を近隣地域から追放し、環境に害を与えている。海岸の至る所に建物が建てられている。また、観光を支えるために貧しい労働契約に署名しなければならない。それは暴力と同じです。そして、観光客の増加は、地元の人々に物価、特にアパートの家賃の上昇という負担を押し付けている。政府は本来目を向けるべき失業率に目を背け、観光業に力を入れている場合ではない。」ということだそうです。

確かに言っていることは理解できます。物事にはメリット・デメリットの両面が必ずありますので、観光業が盛んな地域に利益が落とされていく裏側で、少なからず左派が主張するような現実があるのだと思います。

ちなみにこのラクガキには「Tourist go home」と書かれていますが、正確には「Tourists go home」としてキャンペーンされているようです。

I’m happy again(ポーランド、クラクフ)

意味

また元気になれた。また幸せになれたんだ。など

※ジーン・ケリーの「Singin’ in the Rain」という曲の一節です。

背景

第二次世界大戦中、ドイツのナチスによって行われたユダヤ人に対する殺戮行為「ホロコースト」の舞台となったポーランドのクラクフの旧ユダヤ人居住地区(ゲットー)の街角で見つけました。

ゲットーに強制移住させられていたユダヤ人たちも、徐々に強制収容所へ移送され、残った者も殺害されました。事実上の解体です。

以後、もぬけの殻になったゲットーの跡地には、現在は再開発が進み、若者が集まるおしゃれなスポットになっています。

迫害の歴史の犠牲になった街に描かれたこの一言は、過去のHappyではなかった時代と、ようやく立ち直った現在の両方を感じさせてくれます。

レノンウォール(チェコ、プラハ)

意味

共産主義体制に対する反乱の象徴であり、民主化と政治的自由化の象徴

背景

1988年、共産主義政権下にあったプラハの若者は、民主化と政治的自由化を求め、自由、西洋文化、政治闘争の象徴であるジョン・レノンをこの壁に描くことで、その怒りと不満の意思を表しました。

当然、共産主義政権は苛立ち、この壁を塗りつぶしましたが、翌朝には再びラクガキが描かれていました。

以後、この壁はレノンウォールと呼ばれるようになり、民主化と政治的自由化の象徴となりました。

現在まで何度も塗り直されていますが、今では人気の観光地となっています。

また、この背景を踏まえ、中国の共産党政権による政治的介入に反対する香港市民がレノンウォールの考えに共感し、香港に第二のレノンウォールが生まれています。

The following two tabs change content below.
せんまさお

せんまさお

シャイな僕が世界一周の旅へ。諸事情により緊急でお金が必要だったので一部上場企業のキーエンスへ就職。27歳で退職し、夢だった世界一周をすることに。やりたいことを全部やっている最中です。まずは死なずに帰ってきます。皆が憧れる世界一周だと思いますが、良いところも悪いところも全てそのままお伝えして、一緒に旅している感覚になっていただければ嬉しいです。座右の銘はPLUS ULTRA。「もっと向こうへ」という意味です。好奇心の赴くままにもっと向こうへ行ってきます。好きなコーラはコカ・コーラ。スカッとさわやかコカ・コーラ。LOVE&PEACE。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

ABOUTこの記事をかいた人

せんまさお

シャイな僕が世界一周の旅へ。諸事情により緊急でお金が必要だったので一部上場企業のキーエンスへ就職。27歳で退職し、夢だった世界一周をすることに。やりたいことを全部やっている最中です。まずは死なずに帰ってきます。皆が憧れる世界一周だと思いますが、良いところも悪いところも全てそのままお伝えして、一緒に旅している感覚になっていただければ嬉しいです。座右の銘はPLUS ULTRA。「もっと向こうへ」という意味です。好奇心の赴くままにもっと向こうへ行ってきます。好きなコーラはコカ・コーラ。スカッとさわやかコカ・コーラ。LOVE&PEACE。