皆を起こさないようコソコソと部屋から出た。昨日の内に宿のスタッフにはトレッキングに行くことを伝えてあったので所定の場所へ荷物を預けておく。お金は昨晩払っておいた。
宿の前へチャーターしておいたタクシーが迎えにきた。朝から一日分の稼ぎが得られるからかニコニコしている。
道中、ドライバーが「あそこに山が見える」と教えてくれた。毎日曇りか雨ばかりで全く見えなかった山肌が見えた。しかし山頂付近は雲に隠れて全貌は未だ見えない。
そうこうしているうちに登山口へついた。あまり人気がないからか朝早いからか、それとも天気が悪いからか、この登山口には登山客は誰もいない。
ドライバーへ支払いを済ませ、登山口へ向かおうとした瞬間、二匹の犬がけたたましく吠えながらこちらへ向かってきた。
慌てて逃げたがバックパックを背負っているのであっという間に追いつかれた。だめだ戦おうと決心したが、犬達は僕を追い越して前に行ってしまった。
「こっちこっち」
後ろからおばちゃんが呼んでいる。犬が戻ってこないうちに早足でおばちゃんの元へ向かった。
おばちゃんはお店をやっているようで、紅茶でも飲んでいかないかと聞いてきた。朝ごはんを食べていなかったので甘いミルクティーを飲むことにする。
オープンテラスというか道端のベンチに座って待っていると二匹の犬が走って戻ってきた。僕がビビり倒していると、おばちゃんが奇声(ネパール語?)を発しながらこちらへやってきて、犬の腹部を横からプッシュして一匹を吹き飛ばした。それを見たもう一匹は逃げていった。
サンキューベリーマッチと伝えると、おばちゃんは微笑んでお茶づくりに戻っていった。犬は腹部を横からプッシュすれば吹き飛ぶということを朝っぱらから学んだ。
昨晩降った雨で気温がいつもより低い。同じ宿のイスラエル人から雨なので登山はやめた方がいいと言われたが、明日は晴れる予報が出ているので今日を逃したら日の出が見れない。それに僕が行くのは標高2000mほどの低いポイントだ。
ところでどの山に登るのかだが、世界の果てまでイッテQでイモトが登ったことで世間で一躍有名になったアンナプルナ山だ。
もちろん僕みたいな運動音痴では登頂は難しいというかたぶん無理だろう。予算や自分の能力から考えて無理のない「オーストラリアンキャンプ」というかつてオーストラリア人がキャンプしたからそう名付けられたという短絡的なネーミングセンスの場所を目指すことにした。
湯気が昇るミルクティーで身体を温め、おばちゃんに犬の件も込みでお礼を言い今度こそ登山口へ向かった。
石畳の道が続く。石がキラキラと不思議な光り方をしている。かつてヒマラヤ山脈は海の底だったと聞いたことがある。もしかすると貝殻の化石か成分かなんかが混ざっているのかもしれない。
あっという間に息が切れる。辺りには誰もおらず、静まった山に自分の息と鼓動だけが響いているような気がするが実はそんなことはない。
また犬が出てきたらどうしようと不安になりながら、横腹をプッシュするイメトレをしていたがやっぱりそんなこと僕にはできない。
登山道とはいえ、道中には農村が点在している。棚田が広がり、簡素な作りの家がちらほらと見える。ニワトリやヤギ、水牛が放し飼いにされている。
一時間ほど登った頃、一軒の売店が見えたので朝食がてら寄ることにした。チョウメンという焼きそばみたいなものを頼み、待っていると猫がやってきた。昨日引っ掻かれたばかりで警戒していたが、案の定僕によじ登ってきた。頼むから爪を立てないでほしい。きっと寒いんだろうから一緒にあったまることにした。
なぜ猫はこんなにかわいいんだろう。僕は猫派として生きてきたが、数年前から犬派に鞍替えした。猫の自分勝手さに愛想が尽き、犬の積極的な態度に疲れた心の癒しを求めたからだ。
しかしいざ猫に積極的になられてしまうと、心は猫の元へあっという間に戻ってしまう。猫まっしぐらというやつだ。
たぶんちょっとワガママな女性がモテるのは猫派からの支持だろう。僕がそうなんだからきっとそうなんだろう。
僕のチョウメンがやってきた。人のいなくなったキッチンに向かって猫はまっしぐらに走っていった。もうワガママなんだから。
チョウメンを食べていると店主のおじさんが教えてくれた。
「昨日7人死んだ。悪天候でヘリコプター同士がぶつかったんだ。」
観光用なのか分からないが二機のヘリコプターがアンナプルナ上空でぶつかって墜落して全員死亡したらしい。昨日は午後からずっと雨が降っていたが山ならば尚更荒れていたことだろう。
低い地点だからといって気を抜かずに進まなければならない。ガイドもいないんだから道に迷わないようにも注意しなければ。
猫をひと通り撫でてから店を出たところで雨が降り始めた。強くはないが、登山中の雨は心に堪える。レンタルしていた雨具を着て登り続けた。
深い霧が立ち込めてきた。雲を通り抜けてきた淡い日の光が霧に反射し、山の緑と相まって蒼く輝く。いや、限りなく蒼に近いブルーというかんじだ。ぼうっと光る景色に吸い込まれるように歩を進める。
また暫くした頃、分岐に差し掛かった。今までも分岐はあったが、看板や足跡、雰囲気から察して進んできたが、今回の分岐は全く分からない。
都合のいいことに近くに山小屋があったので道を聞いた。この分岐こそがオーストラリアンキャンプへ続く道だったのだ。教えてもらったお礼の意味も込めてミルクティーを注文した。
どうやら今はシーズンから少し外れているらしく、お客さんがあまり泊まりに来ないらしい。オーストラリアンキャンプに泊まることを伝えると、残念そうにしていたが、ここも晴れていたら眺めは良さそうだ。
分岐を左に進み、オーストラリアンキャンプへ向かった。ほんの10分ほど歩くとオーストラリアンキャンプへ到着した。約4時間の道だったが、運動不足の身体には堪える。
山小屋というには贅沢なコテージは一晩600ルピー(600円程度)と安い割に、個室でベッド二台、室内にシャワーとトイレもある。
お腹が空いたので、宿のレストランで食事をとることにした。ダルバートと呼ばれるネパールの定食のようなものを注文して待った。レストラン内には薪ストーブが一つだけあるが、周りはすでに他の客に占領されていて座れないので、僕は外がよく見える窓際に座った。窓からはどんより曇った空しか見えず、寒さに震えていた。
ダルバートがやってきた。丸い金属皿に米を中心にカリー、炒め物、漬物、野菜などが盛られている。
カリーは辛くないように頼んだので全く辛くなくて美味しい。汗をかいた後の食事は、身体を新しく作り直すような感覚で、食べていると身体に染み込んでいくのがよく分かる。味もしっかり感じられる。
塩漬けの青菜の旨味が舌に広がる。苦味が旨いと感じられる歳になっていてよかった。素朴な味がこんなにも嬉しいだなんて。
皿には薄切りにしただけのニンジンとダイコンが乗っている。彩りのためだろうと最後まで残していたが、ニンジンを一口かじり、その甘さと風味に驚いた。最近ピザとかカリーとかばかりだったので、ただのニンジンが本当に美味しくて美味しくてたまらないのだ。
ただのニンジンと言ったが、たぶんただのニンジンでもない気がする。この寒い大地が育んだ甘みが詰まった特別なニンジンなんだろう。ニンジンの味を丁寧に味わえるなんて、なんて贅沢な時間なんだろうか。
ダイコンもシャキシャキとみずみずしい。少し舌を刺す辛味があるので口直しに最適だった。
大満足で完食したころには眠気が襲ってきた。食事で身体があったまったからだろう。部屋に戻り、ダウンジャケットを着たまま寝袋の上に布団を二枚かけて眠りについた。
起きた頃には日が沈みかけていた。山にはまだ雲がかかっているが、少しずつ晴れ間が見えている。低山に差す夕陽が、雲でボヤッとしていた山の輪郭を浮き彫りにしてくれる。
僕はふと気がついた。今までアンナプルナかなんかだろうと思っていた大きな山の後ろの雲の影から、その山の倍はあろうかという山の頂上がチラッと見えたのだ。
想像もしていなかっただけに驚いた。見えたところで信じられないデカさなのだ。聞いてみると、それすらアンナプルナではないのだ。するとアンナプルナはどれだけ大きいのか。
壮大すぎる光景を見届け、僕は夕飯を食べた。今夜は予算の都合上パスタだ。それでもこんな山の中で温かい食べ物を食べられるだけで幸せだった。
I hiked to Mt.Annapurna that is a ridge of the Himalayas. I went to Australian Camp that is one of base camp and low mountain only because I have not enough energy. I stayed there. It takes 4 hours to Australian camp. I was so tired so I had Nepal traditional food. I was surprised about vegetables taste because a slice of carrot was so sweet and tasty. I don’t like salad but the carrot and radish are so good. I really felt better and went to bed soon. I wanted to see beautiful mountains but it was cloudy. After my dinner, I didn’t go to bed because of the nap. I went to outdoor and saw great stars. I watched stars but I felt so cold so I went back to bed.
せんまさお
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