コソボやボスニア・ヘルツェゴビナで起きた過去の紛争の話を聞く限り、セルビア人は我が強くて恐ろしいイメージだが、実際のところ、この国には恐ろしく平和な時間が流れている。
当たり前なんだろうけど、また一方からしか物事を見られていなかった気がする。
ベオグラードはユーゴスラビア時代の首都でもある。ユーゴスラビアの大統領であったチトーの墓もここにあるらしい。
行ってみようと思ったが、なんで僕がチトーの墓参りをしなければならないのか訳が分からなくなって行くのをやめた。ちょっと遠くにあったから行くのが面倒になった挙句、絞り出した言い訳だ。
近くに城壁があるらしい。今は公園になっているそうだ。
歩いて行ってみると、軍事博物館があった。なんか散々戦争とか紛争とかのことを書いておきながら、別にその辺に詳しい訳ではない。その国を訪れる都度調べているだけで学校で習ったことなんて覚えていない。ちゃんと勉強しておけばよかったと今更思う。
軍事博物館は閉まっていたが、屋外に戦車や機関銃、装甲車など大型の兵器が展示してある。





トルコのシリア進攻前日、トルコのワン市の街中で機関銃が装備された装甲車が街中を走っているのを見たのだが、なかなかに怖い。日本でもたまに自衛隊の軍用車を見かけるが、さすがに銃剥き出しで走ってなんかいない。
中国なんて日常的に街中に軍用車や走行車が止まって警備してるもんだから通り過ぎる時は万が一を想定して毎回ヒヤヒヤしながら通ったもんだ。ついでに駅には軍隊も無表情で銃を抱えて警備してるもんだから怖いのなんのって。


展示スペースを通り抜け、城跡の公園へようやく到着。なぜか恐竜の遊園地が突然あるところが「ああ海外だなあ」と思うところ。

公園の端に行くと街を見下ろせる高台になっていた。みんな城壁の上に腰掛け、壁外に足を放り出して座っている。
高所恐怖症だけど僕も座って街を眺める。紅葉に大きな川、オレンジの屋根。綺麗な眺めだなあ、と最初はウットリしていたが、ふと下を見るとめちゃくちゃ高い。

ああこりゃ怖いな、と思う一方で、こっからジャンプしたらどうなるんだろう、という謎の好奇心が湧いてきた。
好奇心を辞書で調べてみると、「珍しいことや未知のことなどに興味をもつ心。」という意味らしい。
この場合、ジャンプして着地したときどうなるんだろうという未知のことに興味を持ってしまった状態なのだ。
決して死にたくはない、しかし次の瞬間にはジャンプしてしまいそうな衝動が胸にこみ上げてきて、それが怖くて城壁から降りた。
意味がわからない。寝ぼけているのか、毎日のように好奇心に逆らうことなく旅をしているからこうなってしまったのか。
訳わからんなあ自分、と呆れながら散歩を続けた。


ポスターが見えた。現地語なので読めないが、写真から察するに恐らく拷問器具展のポスターのようだ。
昔、東京に遊びに行ったとき、友達に誘われて、明治大学で開かれていた拷問器具展に行ったことがある。ついでに僕には拷問器具のアーティストの友達もいる。
怖いもの見たさで行ってみた。
あれまあ、人間の闇がフルに生かされたアイデアの結晶の数々。人を苦しめるためだけに洗練された形状と仕組み。想像するだけで股が裂けそう。なんか昔のヨーロッパ野蛮じゃない?






展示会場から出ると、拷問器具のレプリカが会場前に置いてあった。頭と手を固定するタイプの拷問器具らしいが、そこに頭と手を入れて写真撮影する用にゆるゆる設定になっている。
陽気なお父さんがそれに頭と手をはめて娘に写真撮影してもらっている。シュールすぎる。
そこからしばらく歩き、向かったのはユーゴスラビアの旧防衛省跡。紛争の鎮圧に努めたNATOによる空爆が行われ、今もその建物がそのまま残されているらしい。
道中は宮殿やら教会やら豪華な建物が並んでいる。ユーゴスラビア時代は社会主義だったにもかかわらず、少なくともベオグラードはあまりそういった雰囲気は感じられない。そういった雰囲気というのは、どこかこう無機質な寂しげな感じのことだ。それにしても、とてもこの辺りに空爆現場がある想像がつかない。
しかし急に軍人が警備しているのが見えた。その目の前にそのビルがあった。空爆で半分崩れ落ち、残った部分の床もグニャグニャに曲がっている。コンクリートからは鉄骨が剥き出しになり、窓は全て抜け落ちている。無残。


帰り道にお金を使い切ることにした。残り350円ほど。再両替も無理だろう。スーパーに行き、インスタントのスープを7つ買った。計算通りいけば、ぴったり残額使い切れる。
しかし会計は2円分ほどオーバーしていた。おかしいと思い、もう一度ちゃんと見てよと伝えると舌打ちされた。なんだこの野郎。なんだその舌打ちはと聞くと無視して再計算。
どうやら違う金額の商品なのに、全て同じ金額で計算していたらしい。どうしてバーコードを読み取るだけなのにちゃんとしないのか。要は舐められてるんだ。適当でいいでしょと思われてるんだ。仮に大統領でも来ようもんなら、絶対に間違えないようにするはず。じゃないから適当に一つバーコードを通して掛ける7でいいっしょとなるのだ。
ポケットにスープを突っ込み、空っぽの財布を持って宿に戻った。

今夜はカラオケ大会はお休みのようで、火鍋パーティーが開かれている。例の如く寒空の下でダウンジャケットを着て酒を煽るヨーロピアン。みんな仲良くできないものか。いや、できないこともあるからそういうときは関わらないのも一つの手か。

せんまさお

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