ワン猫を見るにはどうすればいいのだろうか。ワン猫は保護されている貴重な個体らしく、それなら街中でウロウロしているのを見ることは難しそうだ。

絨毯屋の看板ネコとして活躍しているなんて聞いたことがあるが、絨毯屋なんてどこにあるのか分からない。
調べているうちに、ワン猫研究飼育施設があるらしいことが分かった。どうやら大学内にあるらしい。
バスに乗って大学へ向かう。地図を頼りにワン猫ハウスこと、ワン猫研究飼育施設へ歩く。
大学は広大で、30分ほど歩いてようやくワン猫ハウスへ到着。

入場料を払えば施設に入れる。更に猫の餌を買えばワン猫の檻に入れると案内された。
せっかく来たんだからと猫の餌を買い、檻に入る。入った途端に猫に囲まれた。餌目当てのようだ。


餌をお皿に乗せようとするが、あまりに寄ってたかってくるのでお皿にすら乗せられない。
ダッシュで遠くの皿に向かってすぐ餌を半分だけ出した。猫もダッシュでやってきて食いつく。
その隙に別の皿に残りの半分を乗せた。競争に負けた猫用だ。

ガツガツと食べ終わると、それぞれバラバラに散ってしまった。やはり僕になんて興味はないようだ。
こちらから積極的に関わりに行くが、どの猫も僕のことを憎んでいるような顔をして見てくる。餌を持っていない人間なんて彼ら彼女らからすればゴミクズ同然なんだろう。



中には睨みを利かせてくるやつまでいる。圧倒される。







肉球を触ると眉間にシワを寄せて睨みつけてくる。かわいい。
その目は恐ろしいながらも黄色と青のオッドアイで不思議な美しさがある。








毛は白くてフワフワで、綿菓子みたい。
しばらく猫に虐げられていると、係員がやってきて檻を開けた。時間のようだ。
まだ猫から離れたくなくて、檻の外から眺めるが、僕のことはとても嫌いらしい。グッと睨みつけてくる。でもかわいい。


2時間くらい滞在し、帰り道で次の街、シャンルウルファ行きのチケットを買った。トルコのバス代は安くない。恐らく8時間程度のバスだろうが、120リラ(2,280円程度)もした。
一旦宿に戻り、お茶を飲みながらニュースを見ていた。
アメリカ軍がシリアから撤退するらしい。シリアのクルド人部隊と協力してイスラム国(ISIL)討伐を行なっていたが、近日中に撤退することを決定したようだ。
それを受けて、トルコ軍がシリア北東部のクルディスタンへ進攻することを決めたようだ。トルコ軍は、クルド人テロリストの討伐と、討伐後のその地域へシリア難民を送り返す名目らしい。
その影には様々な思惑があるようだが、何にせよ、ワンの街はシリアとの国境から130kmしか離れていない。130kmといえば大阪市から名古屋市くらいの距離だ。離れているといえば離れているが、近いといえば近い。
とりあえずさっき買ったばかりのシャンルウルファ行きのバスチケットは破棄する方が良い気がしてきた。なぜならシャンルウルファはシリアとの国境から50kmほどしか離れておらず、また外務省が発表している危険レベルは元々2と比較的高いからだ。つまり日本のツアー会社は通常は行かない地域ということだ。念のため雲行きが怪しい今は避けておいた方がいい気がする。
しかしどうしても行きたい。とても良い場所と聞いている。悩んでも悩んでも、なかなか決めかねるので旅仲間に相談する。やっぱやめた方がいいよね、と相談するが、当たり前だけど結構意見はばらつく。
旅仲間なんて外務省発表の危険レベル2の地域なんて当たり前のように訪れるからだ。旅していると止む無く通ることならザラにある。今回は有事も重なるので念のためやめた方がいいという意見に従うことにした。
ちなみに外務省から今回の件について危険情報の発表は今のところない。
具体的にどの辺を進攻しようとしているのか調べるが、日本のニュースでは具体的な情報は載っていない。シリア北東部って範囲が広すぎだ。
英語でも調べる。CNNなら頻繁に情報が更新されていた。具体的な地域を調べていると、進攻を予定している地域の図が見つかった。やはりここから130km地点は進攻の対象のようだ。
早いところ北上したい。しかし、大丈夫なんだろうか。
昼間にやたらと軍人や装甲車や戦闘用車両のようなものを見た。街の自動車整備工場にも軍隊の車ばかり止まっていた。車の屋根に設置されている大きな銃を見て、物騒だなと思っていたが、もしかしてこの進攻に関係するのかも知れない。動悸がしてきた。
更に情報を調べていると、新しいニュースが更新された。
《トルコ軍がシリア北東部へ進攻開始》
まさか、こんなに早く始まるなんて。さっき知ったばかりだぞ、これからどうすればいいんだ。
この街は安全なんだろうか、他の街へ行く手段はあるのだろうか。下手に動かない方がいいのか。実は安全なんだろうか。
外務省のサイトを見てみても情報は更新されていない。さすがにまだ早いか。それともトルコ側には危険が及ばない予想なんだろうか。判断がつかない。
今日出るバスはとっくに終了している。動こうにも動くことができない。外で爆発音がする。恐らく打ち上げ花火かなんかだろうが、こんなときにやめてほしい。
僕の心はどんどん追い詰められていった。僕がこの街にいることなんて誰も知らない。言葉だって通じない。一人で旅しているんだから一人でなんとかしなければならない。
もしかしたら僕と同じようにみんな逃げたくなって交通機関が麻痺するかもしれない。外国人の僕は優先されないかもしれない。
ひとまず、できるだけ早くこの場所を離れられる飛行機を予約することにした。もしかしたら飛行機も飛ばなくなるかもしれないが、空港が閉鎖されればバスターミナルへ向かうつもりでいる。
明日のお昼の便が予約できた。トルコ西部のイズミールという街へ向かう便だ。イズミールはシリアからは相当に離れている。恐らく戦闘の被害は出ないはずだ。
ひとまず、今夜を乗り切る必要がある。今のところ、街は平和そのものだが、大きな物音が聞こえる度に変な汗をかく。
そんな状況でも腹は減るもので、ビビりながらも近くの商店へ向かった。早く部屋に戻りたくて、ポテチとチョコとコーラを買う。
酔っぱらったおじさんが話しかけてきた。友達が日本に住んでいるから、困ったら連絡しなさいと電話番号を教えてくれた。
おじさんは陽気にしているが、ニュースのことは知っているんだろうか。なぜみんな普通にしていられるのだろうか。僕が平和ボケしているから不安なだけで、トルコの人は慣れっこなんだろうか。
宿に戻り、ポテチとチョコをコーラで流し込み、電気を消してすぐに布団に篭った。
不安な気持ちを忘れたくて寝ようとする。廊下からはバタバタと足音が聞こえる。
もしかして僕を置いてみんな避難しているんじゃないか。ローカルのニュースではもっと詳しい危険情報が公開されているんじゃないか。
頭の中で悪い想像がグルグルと渦巻いている。寝られない。じっと目を閉じているしかない。
外務省からの情報はまだ何も出ていなかった。

せんまさお

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