コソコソと宿を抜け出す。お世話になったスタッフはソファにうつ伏せで寝ている。どうやって息してるんだろう。
まだ辺りは薄暗い。午前6時。すでに街には人影が見える。いや、もしかすると、まだ人影がある、のかもしれない。バクーの夜は長いからだ。
「なんで早朝から歩いているの?」
学生っぽい二人組に声をかけられた。空港へ向かっているからさ。
「アゼルバイジャンはどうだった?」
ナイスカントリーだよ、と答えたが、書けばキリがないほど悪口が出てくる。都会と聞いていたのでリフレッシュのつもりだったが、悪徳タクシーで始まり、とんでもなくストレスが溜まった国だった。一言で言うなら排他的で性格が悪い国だ。二言になってしまった。
しかし宿には恵まれた。今まで泊まった宿の中で一番のお気に入りかもしれない。ゲストは難ありだったが、スタッフ達のマイルドな性格がとにかく好きだった。
旅の計画を一緒に考えてくれたり、夜な夜なベランダで語り合ったりした日々の記憶が蘇ってくる。アゼルバイジャンで一番の思い出がこの宿だ。
アゼルバイジャンにはもう来たくないが、彼らにはまた会いたいな。
5つ星らしい空港に到着。空港へ入るにも荷物検査がある。
「Tシャツ表裏逆じゃない?」
逆だったのだ。人の国の悪口言ってる場合じゃない。
トイレで直し、チェックイン。ラウンジで飯を食って搭乗。

離陸30分後、叫び声で目が覚めた。なぜか分からないが、乗客の女性が客室乗務員の女性に怒っている。指をさして大声を出して怒り狂っている。

周りの乗客もその剣幕に驚き、飛行機中の客がその女性の方を見ている。
そのうち女性は泣き始めてしまった。大声でエンエン言いながら泣いている。
前の方に座っていた女性がおもむろに立ち上がり、泣いている女性を抱きしめてなだめる。友達ではなさそうだ。
全く何が起きたのか分からないが、静かになったので再び寝る。
再び女性の叫び声で目が覚める。また大声で怒っている。
何があったのかは分からない。通路を挟んで隣の席の客は別の席に変えてもらっていた。最後まで何があったのかは分からなかった。ところで飛行機って乗務員の仕事を妨害したら捕まるんじゃなかったっけ。
カスピ海を再び越えてイランの首都テヘランへ到着。
それにしても、人の記憶はいい加減なもんで、カスピ海なんてこっちに来るまで、地図を見てもその存在に気づいていなかった。こんな所にこんなデカい湖があったなんて。
空港で少額を両替。アメリカの経済制裁を受けているような国なので、グローバルブランドのVISAやMasterCardなんかは使えないので両替するしかない。
しかし銀行の両替レートは悪いらしいので、市内へ向かう地下鉄代くらいを両替。途中で会った旅人いわく、どうやら闇両替(公定レートと実勢レートに大きな乖離がある国における実勢レートを用いた両替。主に著しい自国通貨安が発生した際に公定と実勢に乖離が生まれる。中には闇両替が違法な国もある。違法でない場合は闇ではないという説があるが、闇の方がカッコいいので旅人は闇両替と呼びたがる。)が健在の国らしい。
地下鉄は女性専用車両がある。さすがイスラムの国、と思ったが、女性が被るヒジャブは頭のてっぺんを通るようにフンワリ巻いているだけで、ヒジャブを被る他の国のようにしっかりとは巻いていない。なんなら飛行機内では脱いでいて、降りるときに被っている人が殆どだった。これじゃただのオシャレだ。
一時間半程度で宿の最寄りに到着。歩いて2分。木製の扉だが、オートロックになっている。インターホンを押すとドアが開いた。
そこにいたのはイランギャル。ドかわいいイランギャル。エキゾチック。
ドかわいいイランギャルに連れられ部屋へ。英語堪能で助かる。
欧米人と中国人がめちゃくちゃ大量に泊まっている。大きな宿のようだ。
「ごめんなさい、お金を持っていないのでちょっと支払いは待ってください。」
ドかわいいイランギャルにそう言って僕は昼寝を決め込んだ。
早起きした上に飛行機でも寝られなかったので眠たくて眠たくてしょうがなかったのだ。
1時間ほど寝たが、馬に乗って旅してる夢を見た。夢の中でも旅できるのは一度で二度おいしい。
腹が減ったので宿を出る。しまった、お金がないんだった。
両替所を探してしばらく歩いていると、両替しないか、とおじさんに声をかけられた。レートを聞いておく。
最初の両替なのでボッタクられても分からない。念のため店舗で両替したい。
いくつか店舗を当たってみたが、まさかのどの両替屋も口を揃えてイランの通貨リアルが残っていないと言う。明日の朝来いとのこと。
どういう事だろう。道端の両替商のおじさん達は、これ見よがしにリアルの束を道端に置いて両替客を探している。一方で店舗には全く無い。
どうしても店舗で両替したかったので、更に歩き続けると、ようやくリアルが残っている店舗を発見。レートは悪くも良くもない。
無事に両替が済み、近くのバーガー屋に入る。
「お腹ペコペーコでーす」
お腹ペコペコだったので、ハンバーガーとホットドッグを注文。
「持ち帰りですか?」
いえ、ここで食べて行きます。と答えると、えっ、みたいな反応をされた。この時気づけば良かった。
数分後、僕の目の前には手のひらほどもあるハンバーガーと、肘から指の先までくらい長いホットドッグが運ばれてきた。

あの時の「えっ」は「えっ、デブやば」の短縮形の「えっ」だったのだ。
なんという事でしょう、もしこの店が日本にあればこのメニューだけで有名店になりそうだ。
ハンバーガーはどうにか食べきったが、ホットドッグは無理だ。袋に詰めてもらって持ち帰ることにした。
しかし宿には朝ごはんが付いている。そして昼も観光中に街で食べるつもりだ。食べるタイミングがない。
そんなときちょうどゴミを漁っている人を見つけた。頼まれてもないので失礼かな、と思いながらも、お腹いっぱいだから食べてくれませんか、と聞いたらサンキューと受け取ってくれた。こちらこそまじサンキューだ。

ようやく宿代の支払いを済ませた。今度は違うイランギャルがフロントにいた。エキゾチック。
満腹で苦しい。もう今日は動かないことを決め込んだ。
明日はテヘラン観光しようかな。でもちょっと暑いな。

せんまさお

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