インドに住む方々は、日本と比べてとても自然に生活されていると思いました。
楽しい時はハチャメチャに笑い合い、怒った時は喧嘩にまで発展している場面を何度も見ました。
昼を過ぎると、木陰で眠るインド人も多く見ました。たぶん路上生活者の方々だけではありません。
木陰は人間だけのものではなく、強い日差しを避ける犬の絶好の昼寝スポットでもあります。
気持ちよさそうに寝る犬と並んで、全く同じ姿勢で気持ちよさそうに寝るインド人を見て、失礼ながら「犬みたいだな」と思ったことがあります。ごめんなさい。自然体だと言う意味です。
そんなインドの生活にも慣れ、僕も公園の芝生でゴロゴロすることに慣れていきました。
地面に近い距離の生活というのは、人間の動物的な本能に訴える何かがあるのでしょう。心地よいのです。
キャンプをしていて、なんだか自然に溶け込んだかのような安心感を覚えたことが何度もあります。
普段は手が少し汚れているだけで気になるのが、自然に溶け込んでいるときは地面に落ちた食べ物だって食べられるようになります。
そもそも人間も動物なのだから土に汚れようが、怪我をしようが、大したことではないような気分になり、それが心地よいのです。
そんなある日、たまたま知り合ったインド人たちと一緒にチャイを飲んでいました。
一人は大阪でインド料理屋を10年経営していたという男性。日本語もとても上手でした。
彼はもう日本で仕事をすることを辞め、インドのコルカタにアクセサリーや土産物の店を構えて商売していました。
大阪とコルカタは180°違いますから、日本で生活するのは彼の性分に合わなかったようです。
チャイを飲み終え、それじゃあ、と後にしようとすると、彼はこう言いました。
「なんでインドに来てまでそんなに急ぐの。日本に帰ったらまたロボットみたいに働くんでしょ。インドにいる間はそんなロボットみたいな生活しなくていいんだよ。」
それもそうだな、と思い直し、再び椅子に腰かけ、彼らと長く話しました。
犬みたいな生活だと思っていたインド人(本当にごめんなさい)から、ロボットみたいだと言われたことが面白く、しかも納得できるのですから笑えてきました。
確かにインド人のライフスタイルと比べると、日本人は非常にロボット寄りです。
僕は日本人が時間に正確であり、仕事が丁寧であること、またルールに従順であることが好きです。和を乱さないことで、周囲にストレスをかけないように配慮する姿勢が大好きです。
しかし、それが逆に本人のストレスになることも確かです。
一方で、インドの電車は遅れるばかりか突然運行停止になるし、チャイのカップに溜まった砂埃は指で拭うだけだし、観光地で大騒ぎしますが、インドを訪れてから「それでもいいんじゃないか」という余裕が心に生まれました。
確かに人に迷惑をかける行為は良くありませんが、迷惑だと感じるレベルが下がったのは、インドという環境を経験したからでしょう。
インドを訪れて2週間くらいは、勝手に写真を撮ってきたり、詐欺を働こうとしてくる人に苛立っていましたが、一歩下がってみてみると、だからなんだと言うんだろうと思えるようになりました。
むしろ、それすら楽しめるようになっていたのです。
この話をしたインド人の方々との出会いもいいかげんなものでした。
マーケットを歩いていると、お店の人から「クリスマスグッズ」を買わないかと声をかけられたのです。
どう見てもクリスマスグッズなんか求めて歩いていない僕に声をかけてきた彼は、僕が先日見たインド映画の主人公そっくりだったのです。
そのことを伝え、映画のポスターの写真を見せると、「このマーケットで声をかけてくる人には注意しな」と教えてくれました。
さっきまでカモだった僕が、彼の仲間になった瞬間でした。
日本は少なくともインドよりは安全なのにもかかわらず、インド人よりも人を警戒して距離をとろうとします。
それは暗黙の了解であり、初対面から馴れ馴れしくするのはマナーが悪いとされているからです。
しかし、相手との距離感を自分で測らず、ロボットのようにマナーやルールに従っているだけの人がほとんどではないでしょうか。自分だって無意識にそうしています。日本人は幼いころから刷り込まれた独自の感覚を持っているため、意識しなければマナーやルールは破れないのです。
しかしインドの方々は自分の頭で考え、時にマナーやルールが不要であると判断すれば、自分を表現することを優先します。それがインド人が幼いころから刷り込まれたインド独自の感覚なのでしょう。
インド人は犬、日本人はロボット。どちらが良いのか旅の間、長く考えていました。しかし結論はでませんでした。というのも、インドも日本もちょっと極端すぎるのですから。

せんまさお

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