同室のみんなはまだ寝ているので、そっと荷物を中庭に運び出し、コソコソと荷造りをする。
その間、フランス人ボクサーはランニングかなんかトレーニングに行った。
なかなか居心地のいい宿だった。カンクンの宿はパリピ的な意味で騒がしかったが、それ以降の宿はチル系で居心地がいい。
バスターミナルでバスを待つが、なかなかバスは来ない。ちょっと不安で、スタッフにまだ来ないかと聞いたが、やはりまだ来ないとのことだ。
「なんて言ってた?」
1人の男が声をかけてきた。どうやら僕と同じ目的地らしい。
オーストリアから来たらしい2人組。僕と同じくスペイン語が分からず、ちょっと不安になってたらしい。僕も分からないので、3人ともドキドキしながらバスを待つ。
予定から30分ほど過ぎた時、バスがやってきた。3人で乗り込む。
今日のバスは9時間コースである。向かう先はサン・クリストバル・デ・ラス・カサスという街だ。昔行ったスリランカのスリ・ジャヤワルダナプラ・コッテと並ぶ14文字の長さである。
実は出発地のパレンケからサン・クリストバル・デ・ラス・カサスまでは最短ルートだと5時間ほどなのだが、そのコースは山賊出没地帯であり、大手バス会社は迂回ルートを通っている。小型バンの会社なら爆速でそこを飛ばすらしいが、山賊はごめんなので迂回ルートを通るバスにした。
3時間ほど走り、経由地の街に着く。一度バスを降りるように言われたような気がして、全員バスを降りる。
するとバスはドアを閉めてどこかへ行ってしまった。すごく不安であるが、実は僕は預けてあるバックパックにAppleのAirTagのパチモンを忍ばせているので、位置情報を見ることができる。僕は時代の進化に乗り続ける男です。
位置情報を見てみると、どうやらバスターミナルからは出ていないらしい。出発地で一緒になった男2人組も不安そうにしているので、たぶん大丈夫だよと伝えて一緒に待った。
「どこから来たの?」と聞くと、オーストラリアという。
「あぁ、オーストリアか、行ったことないわ」
と伝えると、僕も行ったことないと言われた。
(?)
もう一度聞き直すと、「オーストリア」だった。申し訳ない。
オーストリアから旅行できたらしい。メキシコを選ぶあたり渋い。
30分ほど待つと、バスが戻ってきた。どうやら給油していたようだ。
バスに乗り込み、残り5時間半の旅路へ。隣の席の女性は、いわゆるオーバーサイズである。ちょっとこちらの席にはみ出してきているので、ずっと僕とくっついている。暑い。
しばらく走っていると、暑かったはずの車内が、徐々に寒くなってきた。
向かっているサン・クリストバル・デ・ラス・カサスは標高2000mを超える街だ。これで暑い日々にもおさらばだぜ!!!嬉しい!!!
9時間はあっという間に過ぎ、オーストリア人の2人に別れを告げて宿へ向かう。
「いい日を!」
もうすぐ日が暮れる。しかし空腹だ。僕はどうしても今日チャーハンが食べたかった。僕は宿に着くや否や、Uber eatsでチャーハンを注文した。世界一周でUber eatsなんて邪道であるが、僕は時代の進化に乗り続ける男なので、躊躇なく注文した。待つ間、カップヌードルを買いに行った。
まもなく、チャーハンは到着した。最高のディナーの始まりである。
チャーハンはクソまずいが、それでも構わない。チャーハンであることが重要なのである。贅沢は言ってられない。カップヌードルもクソまずいが構わない。要はラーメンチャーハンセットとコーラが揃っていることが幸せの条件なのだ。昇天しそうになりながら掻き込んだ。
満腹は幸せだ。とてつもない快楽物質が脳内から湧き出てきている。なんだかとても楽しい気持ちになって、スキップしたい気分だ。
僕は陽の沈んだ街へ出かけた。何やら人が多い。雨が降ってきたが、そんなの気にしない。濡れた髪をかき上げながら、ざわめく街を闊歩する。
石畳に反射する街の明かりが美しい。滑りそうなのでスキップはできない。それでもルンルンな気分で街を歩く。なんだか楽しげな街だ。
前を歩くカップルの男は、彼女の尻を揉んだ。彼女は激怒している。
サン・クリストバル・デ・ラス・カサスには少数民族が多く住んでいるらしく、他の都市で見たようなデカい男、大きなお尻の女性はほどほどに、背の小さい人々がたくさん歩いている。たぶん日本人より小さいくらいだ。
ぶら下がる看板や、吊り下げられたマーケットの商品が、頭にぶつかる高さにある。なんだか巨人になったような気分だ。人混みの中でも僕が一番デカいくらいだ。
(私は最強)
そんな気分で、屋台でデカい串肉を買った。久しぶりに加工肉以外を食べた。いつもひき肉やらソーセージばかりだったので、ものすごくうまく感じる。
ついでにチュロスも買った。チュロスを待ってる間、ストリートチルドレン的な子どもがねだってきたので、チュロスを少し分けてあげた。
「グラシアス」と小さな声でお礼を言われた。僕はその返事のスペイン語を知らなかったので、ニヤニヤしただけだった。
少数民族は貧しい家庭が多いと聞いていたが、街を歩く少数民族の身なりは、裕福そうには見えないと思った。貧富の差が激しいところほど治安も悪いので、少しは警戒しているが、サン・クリストバル・デ・ラス・カサスでは警察がたくさん巡回しているのでたぶん大丈夫だとは思う。
暗闇で串肉を食べていると、バイクの爆音が聞こえてきた。大阪で金曜日の夜に聞くのと同じ音だ。
メキシコの国旗を持った若者たちが、バイクで爆音を鳴らしながら走っている。暴走族かな?と思ったが、後から調べてみたら、明日はメキシコの独立記念日らしい。たぶんそれで騒いでいるだけだろう。でもちょっと怖い。
街を歩く少年(たぶん中学生くらい)の中には、ギャングのような格好をしているのもいる。よく考えたらメキシコはギャングとか麻薬カルテルとかなんなヤバそうな人たちがたくさんいる国なので、少年とはいえ、すれ違う時にちょっとドキッとする。
メキシコではアジア人だからと不当な扱いをされることも今のところないので、変にからかわれたりしないからその分気は楽だが。
さて、今日の宿は1人部屋。サン・クリストバル・デ・ラス・カサスは物価が安いらしく、格安で泊まれる。
9時間のバス移動もなんのその。初めての街に浮き立つ心。スキップしたくなる街。
僕はどれだけ旅をしても、旅にビビっている小心者だ。旅を始めて少し経った頃に、旅する日々に慣れてくるのだが、たぶん今日がその日だ。
やばい、めっちゃ楽しい。
せんまさお
最新記事 by せんまさお (全て見る)
- 【世界一周#411】アレナメヒコ - 2024年9月22日
- 【世界一周#411】アレナメヒコ - 2024年9月22日
- 【世界一周#410】グアダルーペの聖母マリア - 2024年9月21日
コメントを残す