わざわざアスワンに来たのは、アブシンベル神殿にどうしても行きたかったからだ。こんな神殿、それこそ世界ふしぎ発見の話だと思っていたが、まさか本当に行けるとは。
ほとんど寝られないまま起床時刻の午前３時半を向かえ、ノソノソと準備をしてツアーのピックアップをフロントで待った。
宿のスタッフからビニール袋に詰めた朝食のパンを受け取り、4時を少し過ぎたころ、小型のバンに乗り込んで神殿へ向かい始めた。
すぐに寝てしまい、８時過ぎに目覚めた時にはアブシンベル神殿に到着した。
アブシンベル神殿は、現在、スーダンとの国境に近い場所にあるが、元々はアスワン近郊で発見された。しかし、その後のダム開発で沈むことがわかり、まさかの移転工事が行われたのだ。
遺跡を細かく切り分け、それをそのまま移動して組み上げて繋げたらしい。正直言って想像がつかない。スケールが違う。だって神殿とはいえ、崖を削って作ったものなので、ちょっとした山くらいあるのだ。それを一体どうすれば移動できるというのか。
ピラミッドの建築方法は正確には明らかになっていないというが、このアブシンベル神殿の移転工事ですら、遠い未来では、特別な力を使って移動させたみたいな都市伝説になりそうな気がする。
バスを降りて一服していると、一人の女性が声をかけてきた。そう、昨日クレープ屋の前で知り合った中国人のおばちゃんだ。
「あれ、あなた昨日会った人よね？」
そうですと伝えると、「ラッキー！」とのこと。
「私が乗ってきたバスがどこにもいないの、宿に電話するから宿の電話番号を教えて」
意味が分からないので詳しく聞くと、宿で手配したツアーで来たらしく、バスがいなくなったから宿に電話して聞きたいが、Simカードを買っていないらしく、電話をかけることができないらしい。
電話番号を調べてあげていると、分かった？分かった？と急かしてくる。僕も焦っていた。なぜならツアーで来ているので、帰りの時間が決まっていたからだ。
どうやら予約サイトで予約したらしく、そのサイトにログインしてもらおうとするが、うまく伝わらずに拒否された。仕方がないので検索してみるが、やはり電話番号は見つからない。
もう一度予約サイトへのログインを頼むと、ようやくログインしてくれた。そこから電話番号を見つけ、僕のiPhone11proを貸し、電話をかけさせてあげた。
どうやら時間になればバスは戻ってくる予定のようだ。電話が済むと、電話番号を控えておきたいとのことで、メモを取っていた。念のため間違っていないか確認すると、写し間違えていたので書き直してあげた。
いきなり疲れた。到着から15分が経過していたので、急いでチケット売り場へ向かった。
荷物検査を済ませてゲートを抜け、ナイル川の方へ向かうと、そこにはいつか世界ふしぎ発見で見た巨像４体が鎮座していた。
さすがにこれには感動の声が出る。
４体の巨像の間にある穴から内部へ入る。
そこには、とても移設したとは思えない美しい部屋が広がっていた。部屋中に観光客が渋滞している。それほど観光客にとっては魅力的な場所。ダムに沈めなくてよかった。
よく見てみると、中には下書きのままの壁画もある。意外と雑だったりするところもおもしろい。やっぱり人間のやることだ。
移設の様子が展示されているコーナーがあった。遺跡を石切りのこぎりを使って手作業でカットし、クレーンを使って持ち上げる。トラックに載せて運び、再びクレーンで元の位置に置くという作業。いや、これは職人技。つなぎ目は丁寧に塗り固めたようだ。
お土産通りを抜け、バスへ戻る。再び４時間近い道のりを戻った。
宿に戻るとすぐさま昼寝。生活リズムはボロボロ。今夜は午前２時発のバスで次の国へ向かう。
とにかく寝ておかなければ。
せんまさお
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